第12話。商店街のガラポン抽選会と、白い山の怪。
第12話。商店街のガラポン抽選会と、白い山の怪
「特賞は、ハワイ一週間ペア旅行〜〜!!」
週末、ガラガラと小気味良い音を立てて、福引きの抽選器が回っていた。
駅前商店街の歳末ガラポン抽選会。
拓海の手には、日頃の買い物でコツコツ貯めた3枚の抽選券があった。
「いいかい拓海。僕がガラポンが回る瞬間だけ、時間を超スローにしてあげるからね。狙うは金の玉、ハワイ一択だよ!」
横でシルクハットを握りしめた時次郎が、鼻息を荒くしている。
「イカサマはダメだけど……ハワイは行きたい……!」
物欲に負けた拓海が、一回目のガラポンを回した。
ガラガラ……カチャ。
出たのは、白い玉。
「おっと、5等のポケットティッシュね!」
「ぬぅ、次は僕がタイミングを合わせる! ハッ!」
時次郎が指を鳴らした。
――ピシィィィン。
世界が超スローモーションになる。
抽選器の中から、金の玉がゆっくりと出口へ向かって転がってくるのが見えた。
「今だ、拓海! 回せ!」
「よし!」
拓海がゆっくりとレバーを回す。
しかし、その時、時次郎の耳に
「焼き鳥」の香ばしい匂いが届いてしまった。
商店街の出店から漂う、タレのいい匂いだ。
ギュルルルルルッ!!
「あ」
「おい、ここで止まるな!!」
スローモーションだった世界が、完全停止した。
しかも、金の玉が出口の穴に詰まった状態のままロックされてしまったのだ。
「マスター、おじさんの空腹により、抽選器の排出ゲートが物理的に固定されました。このまま解除すると、過負荷で抽選器が爆発します」とアイリス。
「福引きを爆破するな! 時さん、早く何か食え!」
しかし、ここは商店街のど真ん中。拓海のポケットにはマヨネーズもない。
「た、拓海……あそこ、あそこにある……白い山を……」
時次郎がガチガチになりながら指差したのは、景品交換所の裏に山積みにされていた『5等のポケットティッシュ(数千個)』だった。
「ティッシュを食えってか!? お前はヤギか!」
「違う……ティッシュのビニールに付いている……油分と静電気のエネルギーを、僕の口に……」
「もう何でもいいわ!」
拓海は山積みのポケットティッシュから、10個ほどひっつかみ、時次郎の口へ押し当てた。
時次郎がそれをダイレクトに『吸引』する。
ズズズズズッ!!
「ふはぁ! 化学繊維のエネルギー、チャージ完了!!」
パワーが奇妙な形で満タンになった時次郎が、豪快に指を鳴らした。
カチ、カチ、カチ!
世界が猛スピードで動き出す。
しかし、ティッシュの静電気パワーが暴走したせいで、ガラポン抽選器がガガガガガッ!と凄まじい速度で逆回転を始めた!
「うわあああ! 止まらない!」
ポン! ポン! ポン! ポン! ポン!!
出口から、ものすごい勢いで「白い玉」だけがマシンガンのように連射される。
「ひえぇぇ! 白い玉の大洪水じゃ〜〜!!」
ガラポン担当のおじさんが叫ぶ。
結果、金の玉は奥に引っ込み、拓海の前には「ポケットティッシュ3年分(約500個)」の巨大な白い山が出来上がった。
「……ハワイが、ただの鼻水の味方になっちまった……」
呆然とティッシュの山を見上げる拓海。
「まあまあ拓海、これで一生風邪を引いても安心だよ!」と、ケラケラ笑う時次郎。
サクラが
「わあ、これだけあれば大掃除が捗るね!」
と手伝いに来てくれる中、
拓海は時次郎のシルクハットにティッシュをこれでもかと詰め込むのだった。(第12話・完)




