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尾登臥島の夢

 尾登臥島に行くまで私は居続ける。持ってきたキャンプ用品からテント道具を取り出し、説明書を頼りに組み立てた。今日の夕食は来る途中のコンビニで購入した鮭のおにぎりと水。水が五百五十ミリリットルでまさかの200円。画金貨コンビニとはいえ、高すぎ。


 おにぎりを一かじり。おいしい。鮭のおにぎりはいつも外さない。この世のおにぎりがすべて鮭だけになっても、誰も困らないと思う底辺女の戯言である。しかし、値段はまさかの200円越えなのは信じられなかった。隣に置いてあった梅のおにぎりは180円、チャーハンおにぎりは140円なのに、鮭だけ235円。鮭おにぎりが消えるのも時間の問題か。


 駅中でついでに購入した新聞紙を広げる。私が関心を持っているのは一面のニュース。


『尾登臥島の不法侵入者を確保へ。小原総理、自衛隊派遣を検討か』


 絶対にそんなことはさせない。


 無論、私は政治家でも防衛大臣でもない。無職の底辺女。人生の落伍者だ。


 私が死んでも悲しむ人は誰もいない。喜ぶ人であれば3人心当たりがある。地元の友人には七年前に関係を絶たれた。『たとえどんなことがあっても、ウチとあんたは他人だったことにしてください』という文言から、一度も更新されない。


 それでも、日本中のほとんどが私のことを知っている。『連続殺人鬼の妹』『悪魔の血筋を持つ女』『ホンモノ』……みんなが私のことを監視する。トゥルーマンのように。  

この世界はコメディではなく、社会派風刺ドラマだけど。


「待っていて」


 新聞にでかでかと掲載している尾登臥島の写真を撫でる。ここに、私の希望がある。


 早く島姫に会いたい。そして、色々語り合いたい。時間も身分も何もかも忘れて。


「誰?」


 私が入り浸っていた世界は、突然の訪問者の声によって引き戻された。

 なんだか聞き覚えがある。とてもやさしく、そして冷たい温度の声だ。


「何してんの?」


 テントの外から声が聞こえる。テントの布が不自然に揺れる。もしかして、壊そうとしているのか? 私が慣れない手つきで作り上げた簡易的な要塞を。


 こみあげてきたのは焦りと怒りだった。冗談じゃない。違法建築かもしれないが、私にだって居る権利はある。それを侵害されるのは最終人権のはずだ。


 テントのチャックが開いた。顔を拝ませてもらおうと思い、ランプを持ちながら勢いのままに飛び出す。


「おい! 誰じゃ⁉」


 そのままにぶん殴ってやろうと思ったが、光源強いランプに照らされた顔を見て心の荒波は落ち着いた。

 私が理解できないと拒んだ、若手漁師だった。

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