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尾登臥島の評価

「私を、尾登臥島へ連れて行ってくれませんか?」


 私は頭を下げた。


 大阪からはるばるココ、雑賀崎まで来た。天王寺から阪和線で和歌山まで揺られ、バスに乗り変えてここまで来た。


「お嬢ちゃん、なんかあったかい?」


 タバコをぷかぷか吸っていたベテラン風の漁師が、こちらをジトっとした目で見てくる。

 なんだろう。あぁ、またか……みたいな。悪ガキのいたずらを見ているような眼差しだ。


「昔、結構いたんだよね。『尾登臥島へ連れてってくれ』って言いに来た都会もんが。正直辟易してたからようやく解放されると思ったんだがな……」


「そうですか。それは失礼しました」


 気分を害してしまった。それに、表情や口ぶりから察するに非協力的みたいだ。


 もう一度頭を下げて、その場をすぐ後にした。無駄なことに時間を使っている暇はない。


 二隻隣の船の前には、若そうな男性が防波堤に括り付けていたロープを解いている最中だ。慎重に、邪魔しないように声をかける。


「ん? どうかしました?」

 威圧感のない丁寧な口調に、振られて睨まれて軽く傷心していた私は再び前を向くことができた。


「わたくし、大阪から来ました吉永はなと申します」

 自分自身が警戒されないように、あえて私から自己紹介をはじめた。


 男性はオールバックの茶髪に穏やかさを見せる目つき、少し押せば頷いてくれそうだ。

「言っておきますけど、尾登臥島には行きませんよ」


 私の淡い希望を撃ち壊す冷徹な情報が、男性の口元から発せられた。じとりと、さげすむものを見るような目つきで。


「隣の人の話、聞こえていましたよ。あなたも死にに行きたいんですか?」


「違います」


 即座に否定した。

 漁師からすれば私もミーハーも同じなのかもしれないが、メンヘラと私が同率に扱われるのは辛すぎる。


 使命の重さが違う、本気度が違う、会いたい思いが違う。たとえ世界中が敵になっても、島姫が私のことを覚えていなくても、私は尾登臥島へ向かわなければならない。


「ただ、どうせ理解してくれないと思いますよ」


 打ちひしがれる波の音、強烈な風と一緒に運ばれる潮の香り。カモメの鳴き声。


 会話はそこで終わった。もうなにを話してもこの先に光はないと感じたから。


 頭を下げて、また違う人に同じく話しかける。「尾登臥島へ連れて行ってください」島へ連れて行ってくれるなら何でもする。そこまでハッキリと言い切った。


 しかし、返ってきた言葉は様々。「あそこにだけは行きたくない」「君はまだ若いんだから、生きなさい」「命を無駄にしたくない」


 共通していることは、誰もが私の依頼を断ったことだけだった。

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