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第一章 死亡記録は、静かに書き換えられる
冒険者ギルドは、
朝がいちばん忙しい。
依頼掲示板の前には人が集まり、
酒場では昨夜の武勇伝が語られる。
その奥、
誰も立ち入らない記録室で、
ギルド長ヴァレンは
静かに羽根ペンを動かしていた。
「……これでいい」
彼はそう呟き、
一枚の書類を閉じる。
【死亡】
冒険者名:レイン・クロウ
依頼内容:遺跡調査
死因:魔獣による致命傷
その文字は、
事実ではなかった。
ヴァレンは椅子から立ち上がり、
窓の外を見た。
朝日を浴びて、
ギルドの中庭では、
冒険者たちが剣を振っている。
――その中に、
本来は死んでいるはずの男がいた。
黒髪の青年、
レイン・クロウ。
死亡記録に
自分の名があることなど、
彼はまだ知らない。
ヴァレンは目を閉じる。
「すまないな」
それは謝罪であり、
祈りでもあった。
彼は優しい男だ。
だからこそ、
嘘をつく。




