共作の条件と、最初の衝突
久保に過去を暴かれた律は、その動揺をすぐに理性で抑え込む。
火野は、律が人間的な弱さを見せたことに動揺するが、彼女への不信感は消えていない。
火野は、久保の共作提案を断固拒否する。
「断る!俺の魂の作品を、あんな冷たいデータで汚せるか!俺一人で次の選考を突破する!」
「拒否権はありません。久保編集者と出版社が下した効率的な決定です。感情的な抵抗は時間の無駄です。」
律は、久保の提案を受け入れる代わりに、共同作業の「ルール」を提示する。
彼女にとって共作は、AIの検証とデータ収集の場に過ぎない。
律は、共同作業の効率を最大化するためのルールを、ホワイトボードに書き出しながら説明する。
「ルールは三点。一、テーマ設定はデータ分析に基づく最適解を採用する。二、プロット構成はAIの予測モデルを使用する。三、執筆作業は、火野さんの熱量を核とし、私が構造補完を行う。私の論理を否定する権利は、火野さんにはありません。」
律は、すべての主導権を「論理」と「AI」が握ることを要求する。
火野の怒りが爆発する。
「ふざけるな!それじゃあ俺は、お前の設計図に肉付けするだけの『道具』じゃないか!俺の熱量を核にするなら、プロットは俺が作る!」
「あなたのプロットは、証明された通り、構造破綻というデータを弾き出します。論理的欠陥を持つプロットは無効です。」
火野は、このまま律のルールを受け入れれば、自分の創作が完全にAIに支配されると悟る。
彼は強硬な手段に出る。
「じゃあ、一つだけ条件を付け加える。俺の唯一の創作権を保障しろ。『テーマの最初の鍵となる一文』だけは、俺の衝動で決めさせる。」
律は、わずかな文章が全体の構造に与える影響は無視できると判断し、一瞬のデータ処理の後、これを受け入れる。
「承認します。ただし、その一文がデータ分析と乖離した場合、その後の執筆は全て私の論理に従う。」
こうして、二人の最も相容れない作家による、文学の未来を賭けた共作プロジェクトが、互いの不信と、火野が放つたった「一文」という小さな爆弾を抱えて、奇妙な形で幕を開けるのだった。




