最初の呼び出しと、見えない壁
Aパート
火野誠の携帯に、新人賞事務局から一通のメールが届く。彼の作品が一次選考を通過し、二次選考に進んだという通知だった。
火野は興奮で震えるが、すぐに冷静さを装う。
「やった!やはり俺の魂は、データなんかじゃ測れない……!これで『最適化の設計士』に勝てる…!」
彼はネット掲示板を開き、匿名で勝ち誇ったメッセージを送ろうとするが、指が止まる。
匿名ながらも真摯な**「自己陶酔」**という批判が、火野の心の壁を叩いていた。二次選考に進んだ喜びと同時に、「自分の執筆が本当に普遍的な価値を持つのだろうか」という不安が芽生える。
メールには、二次選考突破に向けて、担当編集者との個別打ち合わせが必要だとの記載があった。火野は、スーツを引っ張り出し、煌びやかなオフィス街にある出版社のビルへ向かう。
彼は、匿名IDの論敵に舐められないように、と普段着ではない服装を準備し始める。
Bパート
同時刻、澄堂律の元にも同じ通知が届いていた。彼女はタブレットで、自身の作品が一次選考を通過する確率はAIの予測通り99.8%であったことを確認する。
「最適解は弾き出せた。でも、二次選考までしか予測できない。……この先に、太宰や芥川のような、あの非合理なまでの輝きを持った作品に、私の完璧な設計図が負ける瞬間があるのだろうか。」
律は、「魂の職人」の作品の残渣を再びAIに分析させようとする。
彼女はAIを信頼しているが、文豪たちの命を削る執筆という、技術では到達できない「ノイズ」の領域に、強い劣等感と憧れを抱いていた。
澄堂律の心の声: 「魂の職人。あの非効率の塊。もし彼が二次選考に残っているなら、私の論理は必ず彼の『熱』に反応する。彼を理解し、制御しなければ、私のAIは永遠に人間の感情の予測値を計算できない。」
彼女は、自分の合理性が試される運命だと感じ、編集部へ向かう。
Cパート
火野が編集部に到着する。担当編集者は火野の作品の「爆発的な熱量」を評価しつつも、単刀直入に「構成の荒さ」を指摘する。
編集者: 「あなたの作品は、まるで制御不能なダイナマイトだ。強烈だが、近くの建物を巻き込んでしまう危険性がある。しかし、その爆発力が、今の小説界には足りない。」
編集者は、火野の作品と並行して二次選考に残っている**「完璧な構成の作品」**の存在を示唆する。
編集者: 「もう一作、あなたの対極にある作品がある。そちらは、全てが論理的に完璧に設計されている。近々、選考会でその作家と顔を合わせてもらうことになるかもしれません。」
火野は、それが匿名で自分を罵倒した「最適化の設計士」だと直感する。「望むところだ。その冷たい設計図を、俺の熱で溶かしてやる!」
その頃、エレベーターで同じビルを昇っていた律もまた、編集者から送られた資料に目を通し、自分の対極にある作品、**「魂の職人」**の存在を強く意識していた。二人は、まだ見ぬ相手に対する闘志を燃やしながら、運命の邂逅へと向かうのだった。




