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魂と演算:AI世代の『物語』論争  作者: 済美 凛


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エピローグ

受賞から一年が経った。


駅前の喧騒も、

締切に追われる日々も、

もう“特別”ではなくなっている。


共同執筆ルームは、今も同じ場所にあった。

机の配置も、窓から入る光も、

ほとんど変わっていない。


「……次の締切、

 少しだけ前倒しになりました。」


「……またか。

 まぁ、想定内だな。」


タブレットとノートPC。

紙の原稿とデジタルデータ。


相変わらず噛み合わない道具を使いながら、

二人は同じ原稿を見ている。



少しだけ遅い昼休憩。


コーヒーを淹れ、

窓を少し開ける。


街の音が、

以前より少しだけ近く感じられた。


「……最近、

 AIの出力ログを……

 “正解”として扱わなくなりました。」


「お、進歩だな。」


「……参考資料、

 という位置づけに……

 変更しました。」


「それで十分だ。」


律は一瞬だけ、

こちらを見た。


「……あなたは……

 まだ……

 “魂が削れる”感覚で……

 書いていますか。」


火野は少し考えてから答えた。


「……削れてるけど、

 前より楽だ。」


「……理由は?」


「隣に、

 ちゃんと戻してくれるやつがいるからな。」


律は一瞬だけ言葉に詰まり、

それから小さくうなずいた。


「……修復工程は……

 私の担当ですね。」



夕方。


新しい企画書のタイトル欄が、

まだ空白のまま、画面に残っている。


「……また、

 論争系でいくか?」


「……今回は……

 “対話”を主軸に……

 したいです。」


「珍しいな。」


「……対立は……

 もう……

 十分、経験しました。」


火野は小さく笑う。


「それもそうだな。」


律は、ゆっくりとタイトル欄に触れる。


「……“魂”と……

 “演算”は……

 もう……

 争わなくていい……

 と思うのです。」


「並べて使えばいいだけだしな。」


「……はい。」



夜。


二人は並んでルームを出る。


街灯の下、

自然と歩幅が揃う。


「……あの頃は……

 こんなふうに……

 一緒に歩くとは……

 想定していませんでした。」


「俺もだ。」


「……今は?」


「想定じゃなくて、

 前提になった。」


律は一瞬だけ立ち止まり、

それから静かに歩き出した。


「……それは……

 “効率のよい未来”……

 という意味ですか。」


「違う。」


火野は、あのときと同じように言った。


「……好きな未来って意味だ。」


律は答えなかった。

けれど、

その歩幅は、もう一歩も離れなかった。



その夜。


タブレットの画面に、

新しいファイルが保存される。


タイトルは、まだ未定。


けれど、

その下にはすでに、

最初の一行が打たれていた。


“これは、魂と演算が、

同じ机で書いた、次の物語だ。”


道具に、罪はない。

魂も、計算も、

人の手の中にある。


だから今日も、

二人は並んで書き続ける。


対立のためでも、

証明のためでもなく——


“物語そのもの”のために。


この物語はここで一旦終わりにしたいと思っています。

二部は感想やブックマークや評価で考えようと思います。

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