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魂と演算:AI世代の『物語』論争  作者: 済美 凛


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26/28

“届いた名前”

通知音は、

あまりにも静かな朝に、

あっけなく鳴った。


共同執筆ルーム。

二人とも、珍しく少し早く来ていた。


まだコーヒーも半分しか飲んでいない。


「……来ました。」


その一言で、

空気が張りつめる。


火野のスマホの画面に表示されたのは、

見慣れた差出人。


新人賞事務局。


(……心臓、

 うるせぇ……)


指が、わずかに震える。


「……開きます。」


律は無言でうなずいた。


タップ。


一瞬の読み込みのあと、

文章が表示される。


火野は声を出さずに読み、

そのまま言葉を失った。


「……?」


律が、不安そうに一歩近づく。


「……書いて、ありますか。」


「……ああ……」


「……結果は。」


火野は、

もう一度、画面を見直した。


逃げ道がないほど、

はっきりとした文字。


「……“受賞”って……」


その瞬間。


律のタブレットにも、

まったく同じ通知が表示された。


二人同時に、

同じ言葉を読む。



---


《新人賞・受賞のお知らせ》



---


一拍。


二拍。


三拍。


それでも、

すぐには実感が追いつかない。


「……取った……?」


「……はい……

 取得、しています……」


「……夢じゃねぇよな……?」


「……複数端末で……

 同一結果を……確認しました……

 現実です……」


次の瞬間だった。


火野は、考えるより先に、

一歩踏み出していた。


そして――


ぎゅっと、抱きしめていた。


強くもなく、

弱すぎもしない。


ただ、

離したくないという力だけがこもったハグ。


律の身体が一瞬だけ硬直し、

それから、ゆっくりと動きを取り戻す。


数秒後。


そっと、背中に腕が回された。


何も言葉はない。


けれど、

胸と胸の間にある振動だけが、

すべてを語っていた。


「……本当に……

 二人で……」


「……ああ……

 二人でだ……」


律の声が、

ほんの少しだけ震える。


「……失敗しなかった……」


「……いや。

 何回も失敗しただろ。」


「……そうですね……

 でも……

 たどり着きました……」


ハグは、

ゆっくりと解かれる。


けれど、

距離はすぐには戻らなかった。



その後の時間は、

あまりよく覚えていない。


電話。

メール。

編集部からの正式連絡。


おめでとうございます、という言葉が、

何度も何度も届いた。


それでも、

いちばん鮮明に残っているのは――


あの一瞬の温度だけだった。



夕方。


すべてがひと段落したあと、

ルームには再び二人きりになる。


窓の外は、

完成の日と同じような色の空だった。


「……取っちまったな。」


「……はい……

 想定外の……結果です……」


「想定してなかったのか。」


「……確率は……

 高くありませんでした……」


「それでも、

 俺はどこかで、

 信じてたけどな。」


律は少しだけ目を伏せる。


「……私も……

 信じてしまっていました……」


その“信じてしまった”という言葉が、

やけに人間らしくて、

火野は胸の奥が熱くなるのを感じた。


「……今日は……

 どうする。」


「……何を、ですか。」


「祝うか、

 それとも、

 静かに終わらせるか。」


律は少しだけ考えてから答えた。


「……今日は……

 静かに……

 二人で……

 整理したいです……」


「……俺も、

 同じだ。」


夕暮れの光が、

机と原稿と、

二人の影を長く伸ばしていた。


“届いた名前”


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