表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂と演算:AI世代の『物語』論争  作者: 済美 凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/28

“重なる始動音”

共同執筆ルームの空気が、

久しぶりに「仕事の音」を取り戻していた。


キーボードの軽い打鍵。

タブレットに走るペン先。

紙に書き込まれる走り書き。


それぞれの音は違うのに、

不思議と、ぶつからない。


「……テーマ、少し変えたほうがいい。」


「……はい。

 “対立”ではなく……

 “すれ違いからの接続”に……

 軸をずらしたほうが……

 成功率が上がります。」


「成功率じゃなくても、

 今のほうが、書いててしっくりくる。」


律は一瞬だけ、指を止めた。


「……しっくりくる、という感覚は……

 まだ……数値化できません。」


「だからいいんだろ。」


「……そう、かもしれません。」



新しいプロットは、

これまでよりも静かだった。


爆発もない。

極端な設計もない。


けれど、

登場人物が“間違える”ことを、

初めて肯定している。


「……ここ、

 あえて失敗させるのか?」


「……はい。

 失敗しないと……

 関係性が……動きません。」


「珍しいな。

 お前がそれ言うの。」


「……例外、です。」


その“例外”という言葉を、

火野はもう、茶化さなかった。



昼過ぎ。


「……この一文、

 少しだけ、俺に任せていいか?」


「……承認します。

 ただし……

 逸脱が大きい場合は……

 構造を……補正します。」


「その条件、

 もう慣れた。」


ペンが走る。


一気に書いた一文を、

律が静かに読み込む。


「……温度が……

 高すぎませんか。」


「下げるか?」


「……いいえ。

 今回は……

 このままで……いきましょう。」


その判断に、

火野の目が少しだけ見開かれる。


「……珍しく即決だな。」


「……迷いが……少ないです。」



夕方。


原稿の進捗バーが、

目に見えて前に進んでいる。


「……今日は、

 ここまでで……いいと思います。」


「もうそんな時間か。」


二人同時に、

少しだけ肩を回す。


「……今日は……

 久しぶりに……

 “手応え”があります。」


火野はうなずいた。


「俺もだ。」


一瞬、間が空く。


「……その……」


「ん?」


「……手応えがあると……

 少しだけ……

 怖くなります。」


「なんでだよ。」


「……期待してしまうからです。」


火野は小さく笑った。


「今さらだろ。

 もう、期待しないほうが無理だ。」


律は、しばらく黙ってから答えた。


「……そうですね……

 もう……

 後戻りは……できません。」



帰り際。


ドアを閉める前、

ほんの一瞬だけ、足が止まる。


「……明日も、来ます。」


「当たり前だろ。」


短いやり取りなのに、

そこには迷いがなかった。


夜の廊下をそれぞれ歩きながら、

二人は同じことを思っていた。


(……今度こそ……)


(……今度こそ、

 本当に、完成させる……)


失敗を恐れていた者と、

感情だけで突っ走っていた者。


その二つが、

ようやく“同じ原稿”の上で、

同じ方向へ走り始めた。


“重なる始動音”


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ