表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂と演算:AI世代の『物語』論争  作者: 済美 凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/28

“すれ違う評価”

昼の外出から一晩明けた、共同執筆ルーム。

窓から差し込む光は変わらないのに、

そこに流れる空気だけが少し重たかった。


火野はコーヒーを片手にノートPCを開いたまま、

何度も同じところをスクロールしている。


(……悪くなかったよな。

 ぎこちなかったけど、

 ちゃんと一緒に歩いて、話して……)


楽しさは確かに残っている。

でも、それをどう言葉にすればいいのかが分からない。


律は机の反対側でタブレットを見つめていた。

画面には、昨日の行動を整理した自分用のメモ。


・会話成立率:低

・沈黙時間:想定以上

・感情取得:不明確

・創作への直接的影響:なし


(……非効率……)


そう結論づけた瞬間、

胸の奥が少しだけ痛んだ気がした。


「……昨日さ。」


沈黙を破ったのは火野だった。


「ん?」


「……正直に言っていいか?」


「はい。」


一拍、間を置いて。


「……俺は、楽しかった。」


律は一瞬、目を瞬かせる。


「……どの点が、ですか?」


「どの点って……

 一緒に歩いたり、話したり……

 そういうの全部含めて、だよ。」


律は考え込むように視線を落とした。


「……私は、

 “楽しかった”という結果は、まだ導き出せていません。」


火野は苦笑した。


「……点数つけてるみたいだな。」


「評価しなければ、改善ができません。」


その言葉に、

火野の胸の奥で小さく何かが引っかかった。


「じゃあ……昨日は、失敗だったってことか?」


「……創作の観点から見れば、

 成果は確認できませんでした。」


その瞬間、

部屋の空気がわずかに冷える。


「……そっか。」


火野はそれ以上、何も言わなかった。

いや、言えなかった。


(……俺は、

 “時間そのもの”が意味あると思っただけなんだけどな……)


律は、火野の沈黙の理由が分からないまま続けてしまう。


「今後は、

 もう少し目的を明確に定めた外出のほうが——」


「もういい。」


火野の声は、強くも荒くもなかった。

ただ、静かに遮っただけだった。


「今日は……作業しねぇ。」


「……そうですか。」


律はそう答えたものの、

胸の奥に小さな不安の影が差す。


(何か……

 また、言い方を間違えた……?)


二人はそれ以上言葉を交わさず、

それぞれの荷物をまとめて立ち上がった。


ドアの前で、

ほんの一瞬だけ立ち止まる。


振り返りそうになって、

でも振り返らない。


「……また。」


「……はい。」


それだけで、

二人は別々の方向へ歩き出した。



その夜。


律は自室でタブレットを開いたまま、

しばらく画面を見つめていた。


“非効率”

“成果なし”

“改善点あり”


正しいはずの言葉だけが並んでいる。


(……それなのに……

 どうして……

 こんなに、落ち着かない……)


喉の奥に、

うまく言葉にならない違和感が引っかかっている。


一方、火野もまた、

自宅で原稿用紙を前にして手を止めていた。


(……楽しかったって、

 言っちゃいけなかったのか……)


誰に聞くでもなく、

答えのない問いだけが残る。


二人は同じ夜に、

同じように眠れず、

同じように“わずかな距離”を感じていた。


この小さなすれ違いが、

やがて体調を崩すほどの無理につながっていくことを、

まだどちらも知らない。

“すれ違う評価”


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ