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魂と演算:AI世代の『物語』論争  作者: 済美 凛


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19/28

“ぎこちない外の世界”

約束の時間より、少しだけ早く着いてしまった。


駅前の時計を何度も見上げながら、

落ち着かない足取りで同じ場所を行き来する。


(……共感性がどうとか、AIがどうとか……

 分かってるけど、やっぱり変に緊張するな。)


少し遅れて、視線の先に律の姿が見えた。


「あ……」


「……お、おう。」


それだけで、また言葉が止まる。

いつもの共同執筆ルームと違って、

ここには“仕事”という逃げ道がない。



最初に入ったのは、駅前の小さな喫茶店だった。


昼下がりの静かな店内。

カップの触れ合う音だけが、やけに大きく響く。


「……何、飲む?」


「同じもので、大丈夫です。」


同じメニューを選んだのに、

なぜか“揃った”という感じはしない。


「……外、来るの久しぶりだろ。」


「はい。

 最近は……必要最小限の外出しかしていなかったので。」


そこから先が続かない。


沈黙が重たいわけじゃない。

ただ、どう切り出せばいいのか分からないだけだった。



店を出て、公園へ向かう途中。


駅前の通りは思ったより人が多く、

二人は横並びになって歩いていた。


近すぎると気まずく、

離れすぎるとよそよそしい。

その微妙な距離が、ずっと定まらない。


そんなときだった。


後ろから慌ただしく走ってきた通行人が、

火野の肩にぶつかった。


「うわっ……!」


体勢を崩した反動で、

無意識に伸ばした腕が、すぐ横にいた律を支える。


ほんの一瞬。

肩と腕が触れ合うほどの距離。


「……!」


互いに、息が止まる。


すぐに体は離れたが、

空気だけが、少しだけ違うものになった。


「……大丈夫か?」


「……はい。

 ありがとうございます……」


それ以降、

歩幅はさっきより、ほんの少しだけ揃っていた。



公園のベンチに腰を下ろす。


風が木の葉を揺らし、

遠くで子どもの笑い声が聞こえる。


「……その。」


「ん?」


「今日の外出は……

 本来は“共感性の向上”という目的がありましたが……」


「それ、今言うことかよ。」


思わず苦笑がこぼれる。


「……すみません。

 説明しないと、落ち着かなくて。」


火野はベンチの背もたれにもたれ、空を見上げた。


「……デートなんて、

 正解があるもんじゃねぇと思うぞ。」


「……正解が……ない……?」


「ああ。

 楽しいかどうかも、意味があったかどうかも、

 その場にいた人間が決めるもんだ。」


律は黙り込む。


(……その場にいた“私は”、

 何を感じていたのだろう……)



帰り道。


信号待ちの交差点で、

並んで立ちながら、同時に小さくため息をついた。


「……今日は……」


言いかけて、言葉を探す。


「……はい。」


「……悪く、なかったろ?」


律は一瞬だけ迷ってから、

はっきりしない答えを返した。


「……“悪くは”なかったです。」


火野は小さく笑う。


「その言い方、点数低そうだな。」


「……評価は、まだ確定していません。」


冗談のつもりだったのか、

それとも本音だったのか、

互いに分からない。


「……じゃあ、またな。」


「……はい。」


手を振ることもなく、

二人は別々の方向へ歩き出す。


背中越しに、

同時に同じことを思っていた。


(……うまくいったのか……?)


(……失敗、だったのだろうか……?)


同じ時間を過ごしたはずなのに、

二人が持ち帰った答えは、少しだけ違っていた。


“ぎこちない外の世界”


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