“ぎこちない外の世界”
約束の時間より、少しだけ早く着いてしまった。
駅前の時計を何度も見上げながら、
落ち着かない足取りで同じ場所を行き来する。
(……共感性がどうとか、AIがどうとか……
分かってるけど、やっぱり変に緊張するな。)
少し遅れて、視線の先に律の姿が見えた。
「あ……」
「……お、おう。」
それだけで、また言葉が止まる。
いつもの共同執筆ルームと違って、
ここには“仕事”という逃げ道がない。
◆
最初に入ったのは、駅前の小さな喫茶店だった。
昼下がりの静かな店内。
カップの触れ合う音だけが、やけに大きく響く。
「……何、飲む?」
「同じもので、大丈夫です。」
同じメニューを選んだのに、
なぜか“揃った”という感じはしない。
「……外、来るの久しぶりだろ。」
「はい。
最近は……必要最小限の外出しかしていなかったので。」
そこから先が続かない。
沈黙が重たいわけじゃない。
ただ、どう切り出せばいいのか分からないだけだった。
◆
店を出て、公園へ向かう途中。
駅前の通りは思ったより人が多く、
二人は横並びになって歩いていた。
近すぎると気まずく、
離れすぎるとよそよそしい。
その微妙な距離が、ずっと定まらない。
そんなときだった。
後ろから慌ただしく走ってきた通行人が、
火野の肩にぶつかった。
「うわっ……!」
体勢を崩した反動で、
無意識に伸ばした腕が、すぐ横にいた律を支える。
ほんの一瞬。
肩と腕が触れ合うほどの距離。
「……!」
互いに、息が止まる。
すぐに体は離れたが、
空気だけが、少しだけ違うものになった。
「……大丈夫か?」
「……はい。
ありがとうございます……」
それ以降、
歩幅はさっきより、ほんの少しだけ揃っていた。
◆
公園のベンチに腰を下ろす。
風が木の葉を揺らし、
遠くで子どもの笑い声が聞こえる。
「……その。」
「ん?」
「今日の外出は……
本来は“共感性の向上”という目的がありましたが……」
「それ、今言うことかよ。」
思わず苦笑がこぼれる。
「……すみません。
説明しないと、落ち着かなくて。」
火野はベンチの背もたれにもたれ、空を見上げた。
「……デートなんて、
正解があるもんじゃねぇと思うぞ。」
「……正解が……ない……?」
「ああ。
楽しいかどうかも、意味があったかどうかも、
その場にいた人間が決めるもんだ。」
律は黙り込む。
(……その場にいた“私は”、
何を感じていたのだろう……)
◆
帰り道。
信号待ちの交差点で、
並んで立ちながら、同時に小さくため息をついた。
「……今日は……」
言いかけて、言葉を探す。
「……はい。」
「……悪く、なかったろ?」
律は一瞬だけ迷ってから、
はっきりしない答えを返した。
「……“悪くは”なかったです。」
火野は小さく笑う。
「その言い方、点数低そうだな。」
「……評価は、まだ確定していません。」
冗談のつもりだったのか、
それとも本音だったのか、
互いに分からない。
「……じゃあ、またな。」
「……はい。」
手を振ることもなく、
二人は別々の方向へ歩き出す。
背中越しに、
同時に同じことを思っていた。
(……うまくいったのか……?)
(……失敗、だったのだろうか……?)
同じ時間を過ごしたはずなのに、
二人が持ち帰った答えは、少しだけ違っていた。
“ぎこちない外の世界”




