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魂と演算:AI世代の『物語』論争  作者: 済美 凛


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17/28

“すれ違う言葉、届かない心”

落選から数日。

共同執筆ルームには、以前のような活気はなかった。


同じ机を挟んで座っているのに、

会話がまるで別々の部屋にいるようだった。


「……なぁ。少し話、しねぇか。」


「話すことは特にありません。」


「……本当にそう思ってんのか?」


律の目が一瞬だけ揺れる。


「落選は実力不足です。

 次に向けて改善すればいいだけです。」


「そうじゃねぇって言ってんだよ。」


火野の声が強く響いた。


「俺はさ……あの作品、悪くなかったと思ってる。

 粗はあったけど、魂は込めたんだよ。」


「魂……?

 感覚的な言葉に頼るべきではありません。

 評価は構造と技術です。」


「またそれかよ……」


火野はゆっくりと息を吐いた。


「じゃあ俺の熱さは、全部ムダだったって言いたいのか?」


「ムダとは言いません。

 ただ、制御されていない熱は形にならない。

 その……燃え方が均一でなかったのは事実です。」


それは分析として正しいのかもしれない。

けれど火野には、胸の奥をつかまれるような言葉だった。


「燃え方が均一……ねぇ……」


律は火野の変化に気づかず、言葉を続けてしまう。


「あなたの文章は印象的でした。

 ただ、技術的には未完成です。

 落選の一因はそこにも——」


「違ぇよ!!」


言葉が重く部屋を揺らした。


火野は律を真っ直ぐに見た。


「落ちた原因を押しつけてぇんじゃねぇんだ。

 でもな……

 “俺が足を引っ張った”って言われてるみてぇで……

 正直きついんだよ。」


律は息をのんだ。


火野は俯く。


「……結局、俺の文章なんて……

 お前のAIからしたら“邪魔な揺らぎ”なんだろ?」


律の瞳が大きく揺れた。


「そんなふうに思ったこと……ありません……」


声はかすれて、弱かった。


火野は、これ以上言うべきでないと分かっていたが、

気持ちの置き場所が見つからなかった。


律もまた何も言えず、

静かな時間だけが漂った。


「……今日は帰ります。」


短くそれだけ告げて、

律は部屋を出ていった。


火野はその背中を追いきれず、

机に残された原稿を見つめた。


(……俺たち……どこで間違ったんだ……)



その夜。

律は自宅の机に座り、タブレットを開いた。


感情が整理できず、呼吸が浅い。


「……感情の分析をお願いします。」


AIの画面が起動する。


《質問:現在の対人関係における最大の課題は?》


「……言葉が……届きません。

 正しい説明をしているだけなのに、

 相手が……苦しそうで……」


《分析:不足している要素——共感性》


律は思わず息を止めた。


「共感……?」


《あなたは“正解”を提示することを優先し、

 相手の感情の位置を理解できていません。》


「感情の……位置……」


《提案:相手と“感情共有の体験”を持つこと。

 例:二人で過ごす時間、散歩、食事などの共同体験》


律は目を見開く。


「つまり……デート……?」


《正確には“共感性向上のための共同時間”。

 一般的にはデートと呼ばれます。》


律の耳が赤く染まった。


「……そんな……出来るわけ……

 でも……しないと……」


胸の奥がきゅっと痛む。


「……また、あんな表情を……させてしまう……」


深呼吸。


「……デートの方法を……教えてください。」


《了解。共感性強化プランを作成します》


タブレットの光が律の顔を照らした。


その表情はどこか不安で、

どこか決意に満ちていた。


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