“すれ違う言葉、届かない心”
落選から数日。
共同執筆ルームには、以前のような活気はなかった。
同じ机を挟んで座っているのに、
会話がまるで別々の部屋にいるようだった。
「……なぁ。少し話、しねぇか。」
「話すことは特にありません。」
「……本当にそう思ってんのか?」
律の目が一瞬だけ揺れる。
「落選は実力不足です。
次に向けて改善すればいいだけです。」
「そうじゃねぇって言ってんだよ。」
火野の声が強く響いた。
「俺はさ……あの作品、悪くなかったと思ってる。
粗はあったけど、魂は込めたんだよ。」
「魂……?
感覚的な言葉に頼るべきではありません。
評価は構造と技術です。」
「またそれかよ……」
火野はゆっくりと息を吐いた。
「じゃあ俺の熱さは、全部ムダだったって言いたいのか?」
「ムダとは言いません。
ただ、制御されていない熱は形にならない。
その……燃え方が均一でなかったのは事実です。」
それは分析として正しいのかもしれない。
けれど火野には、胸の奥をつかまれるような言葉だった。
「燃え方が均一……ねぇ……」
律は火野の変化に気づかず、言葉を続けてしまう。
「あなたの文章は印象的でした。
ただ、技術的には未完成です。
落選の一因はそこにも——」
「違ぇよ!!」
言葉が重く部屋を揺らした。
火野は律を真っ直ぐに見た。
「落ちた原因を押しつけてぇんじゃねぇんだ。
でもな……
“俺が足を引っ張った”って言われてるみてぇで……
正直きついんだよ。」
律は息をのんだ。
火野は俯く。
「……結局、俺の文章なんて……
お前のAIからしたら“邪魔な揺らぎ”なんだろ?」
律の瞳が大きく揺れた。
「そんなふうに思ったこと……ありません……」
声はかすれて、弱かった。
火野は、これ以上言うべきでないと分かっていたが、
気持ちの置き場所が見つからなかった。
律もまた何も言えず、
静かな時間だけが漂った。
「……今日は帰ります。」
短くそれだけ告げて、
律は部屋を出ていった。
火野はその背中を追いきれず、
机に残された原稿を見つめた。
(……俺たち……どこで間違ったんだ……)
◆
その夜。
律は自宅の机に座り、タブレットを開いた。
感情が整理できず、呼吸が浅い。
「……感情の分析をお願いします。」
AIの画面が起動する。
《質問:現在の対人関係における最大の課題は?》
「……言葉が……届きません。
正しい説明をしているだけなのに、
相手が……苦しそうで……」
《分析:不足している要素——共感性》
律は思わず息を止めた。
「共感……?」
《あなたは“正解”を提示することを優先し、
相手の感情の位置を理解できていません。》
「感情の……位置……」
《提案:相手と“感情共有の体験”を持つこと。
例:二人で過ごす時間、散歩、食事などの共同体験》
律は目を見開く。
「つまり……デート……?」
《正確には“共感性向上のための共同時間”。
一般的にはデートと呼ばれます。》
律の耳が赤く染まった。
「……そんな……出来るわけ……
でも……しないと……」
胸の奥がきゅっと痛む。
「……また、あんな表情を……させてしまう……」
深呼吸。
「……デートの方法を……教えてください。」
《了解。共感性強化プランを作成します》
タブレットの光が律の顔を照らした。
その表情はどこか不安で、
どこか決意に満ちていた。




