表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂と演算:AI世代の『物語』論争  作者: 済美 凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/28

“二つの心に、一つの名前を”

共同執筆ルームは、まだ朝の光が柔らかかった。

律は胸元をしっかりと留めたカーディガンで姿勢を正し、

火野はノートPCを開きながらコーヒーを啜る。


昨日書いた原稿の続きを見て、

律が静かに口を開いた。


「……本当に、不思議です。」


「ん?」


「あなたの“たった一文”の熱が、

 私の構造に作用して……

 機械ですら反応する形で文章が変化しました。」


律は胸元をそっと押さえる。


「道具は中立。

 揺れるのはいつだって……人間のほうです。」


火野は、その言葉の奥に

律自身の“過去の傷”がほんの少し滲んだような気がして、

返事ができなかった。


沈黙が落ちる。


「……さて。」


律はタブレットを開いて、別の画面を表示した。


「三次選考に向けて……ひとつ決めなければならないことがあります。」


「ん? 何だ?」


律は画面を指さす。


「“共作ペンネーム”です。

 二人で一つの名前を持つ必要があります。」


火野は一瞬身じろぎした。


「ペンネームか……

 二人で作るなら、確かにそれが自然だよな。」


律は淡々と説明するが、

声の端にわずかに緊張が混ざっている。


「共作の名前は、作品の印象を左右します。

 私たちの作風の“融合”を象徴する……

 そんな名前が理想です。」


火野は腕を組んだ。


「お前は……どんなのがいいと思ってる?」


律は予め作っていた案をいくつか表示した。


・“Heat & Logic”

・“交点の筆記者”

・“有限∞無限”

・“Dual Pulse”


火野は困った顔になった。


「……悪くはねぇけど……

 全部なんか洒落てるっていうか……気取ってんな……」


「気取ってはいません。

 論理的に意味を持たせた結果です。」


「だろうな……」


火野はしばらく考える。


「作品のテーマは“喪失の朝”だろ?

 だから……朝とか、夜明けとか、

 そういうの入れてぇなって思ったんだけど。」


律は視線を上げる。


「……“夜明け”。

 なるほど……再生と出発の象徴です。

 熱の終わりであり、論理の始まりでもあります。」


「おお……なんか難しい言い方になってきたな。」


律はタブレットに静かに一つの言葉を書いた。


暁筆ぎょうひつ


火野は声を漏らす。


「……暁、か。」


「ええ。

 熱を越えた朝、

 論理が落ち着く前の淡い光……

 その“境目”にある筆。」


「……いいじゃねぇか。」


火野は素直に笑った。


「お前の作った名前って感じがして、

 なんか格好ついてんな。

 俺じゃ絶対思いつかねぇわ。」


律は、胸元を押さえながらわずかに目を逸らした。


「……あなたの“朝”という言葉がなければ……

 生まれなかった名前です。」


火野はその言葉に、胸の奥が熱くなるのを感じた。


「じゃあ……決まりだな。」


律は深く頷く。


「はい。

 私たちの共作ペンネームは……“暁筆”。

 これで応募します。」


二人の視線が自然と重なり、

慌ててお互い反対方向へ顔を向けた。


火野は咳払いで誤魔化す。


「よし……じゃあ、続きを書くか。」


「はい。

 今日は“第二章の核心”に入りますから。

 心して書いてください。」


律は胸元を整え、タブレットを操作する。

火野はキーボードを叩きながら、

横にいる律の存在が少しだけ近く感じることに気づいた。


まだ文章は荒削り。

心も不器用。

でも、確かに進んでいる。


二人で一つの名前を持ったその日、

“暁筆”というユニットは静かに産声を上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ