第16章 教えるという不安 第1話 教えてほしいと言われた日
その人は、
昼過ぎに来た。
見慣れない服。
新品の長靴。
畑の土が、
まだついていない。
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「……あの」
少し、
遠慮がちな声。
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「ヒカル、
さん……ですか?」
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ヒカルは、
顔を上げる。
名前。
“さん”。
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「……はい」
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「他の村から
来ました」
「農業、
初めてで……」
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一拍。
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「……教えて、
ほしいです」
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その言葉で、
ヒカルの思考が
止まった。
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「……僕?」
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「はい」
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胸の奥が、
ざわつく。
判断。
水。
守る。
それは、
やってきた。
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でも――
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「……僕」
「失敗、
します」
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「間違う」
「言葉、
下手」
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正直に、
言う。
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「それでも」
相手は、
うなずいた。
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「ここで
やってる人に
教わりたい」
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ヒカルは、
畑を見る。
土。
水路。
苗。
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「……一緒に」
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「え?」
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「……一緒に
やる」
「教える、
じゃない」
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「見る」
「触る」
「失敗、
する」
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相手は、
少し笑った。
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「それで
いいです」
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作業が始まる。
ヒカルは、
ゆっくり動く。
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「……ここ」
「足、
置く」
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「水、
今は
少し」
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説明は、
短い。
でも、
手は止めない。
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「……あっ」
若者が、
足を滑らせる。
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「……大丈夫」
ヒカルが、
支える。
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「僕も、
最初」
「転んだ」
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「本当ですか?」
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「……三回」
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二人で、
小さく笑う。
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遠くで、
子どもたちが
見ていた。
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「ヒカル、
先生みたい!」
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ヒカルは、
首を振る。
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「……違う」
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「……一緒」
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夕方。
作業は、
うまくいったとは
言えない。
でも、
畑は荒れていない。
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「……ありがとうございました」
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ヒカルは、
少し考えてから
言う。
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「……また」
「明日」
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「はい!」
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夜。
ログ。
「今日は、
教えた」
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「正確じゃ
ない」
「上手くも
ない」
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「でも」
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「“一緒”は
伝わった」
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「……教えるのは」
「少し、
怖い」
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「でも」
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「逃げたいとは
思わなかった」




