第2話 任されるということ
朝露が、
長靴の先を濡らした。
ヒカルは、
畑の真ん中に立っている。
いつもと同じ景色。
でも、
今日は少し違った。
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「ヒカル」
後ろから、
声がする。
振り返ると、
三人の大人が立っていた。
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「今日の水、
どうする?」
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一瞬、
ヒカルの思考が止まる。
今までなら、
「指示を待つ」立場だった。
でも――
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「……今朝の気温」
「風、弱い」
「午後から
雲、出る」
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言葉は、
まだ少し
区切れる。
でも、
迷いはなかった。
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「今は
入れない」
「昼前に
一度だけ」
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沈黙。
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「……それで
大丈夫か?」
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ヒカルは、
畑を見る。
土を触る。
少し、
指に泥がつく。
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「……多分」
「でも、
失敗したら」
「……僕の、
責任」
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その言葉に、
一人が笑った。
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「当たり前だろ」
「任せたってのは、
そういうことだ」
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胸が、
ぎゅっとする。
でも、
逃げたいとは
思わなかった。
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「……はい」
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作業が始まる。
ヒカルは、
何度も確認する。
水量。
土の色。
葉の張り。
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途中、
子どもが
近づいてきた。
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「ヒカルー」
「これ、
どうするの?」
小さな苗を
持っている。
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「……それは」
一瞬、
迷う。
でも、
しゃがんで
目線を合わせた。
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「ここ」
「日、
当たる」
「……一緒に
やろう」
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「うん!」
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その様子を、
少し離れたところで
大人たちが見ていた。
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「……変わったな」
「前は、
言われたことだけ
やってたのに」
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「名前で
呼んだからだろ」
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昼前。
ヒカルは、
自分の判断で
水を入れた。
少しだけ。
本当に、
少しだけ。
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午後。
雲が出て、
日差しが弱まる。
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「……正解、
だったな」
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その一言で、
ヒカルの胸が
じんわり温かくなる。
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夜。
ログ。
「今日は、
判断した」
「怖かった」
「でも、
誰も
代わってくれなかった」
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「……それが」
「任される
ということ」
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「少し、
重い」
「でも」
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「名前で
呼ばれるなら」
「……背負える」




