第14章 名前で呼ばれる重さ 第1話 呼ばれるということ
朝の畑は、
いつもより少し静かだった。
理由は、
ヒカルにも
わかっていた。
村の集まりが、
ある。
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「……ヒカル」
後ろから、
声がかかる。
振り返る。
昨日の男だった。
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「今日、
来い」
「一緒に」
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「……はい」
返事は、
短い。
でも、
胸の奥が
少しだけ熱くなる。
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集会所。
人が集まり、
ざわつく。
ヒカルは、
いつもなら
端に立つ。
今日は――
違った。
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「こっちだ」
村長が、
手招きする。
前の方。
円の中。
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視線が、
集まる。
逃げたくなる。
でも、
足は
止まらなかった。
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「……まず」
村長が
咳払いをする。
「昨日の件だが」
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空気が
張りつめる。
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「水の件、
判断は
正しかった」
「結果も
出ている」
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ざわっと、
声が上がる。
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「そこでだ」
村長は、
ヒカルを見る。
「今後、
畑の水回り」
「ヒカルに
任せたい」
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一瞬、
音が消えた。
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「……え?」
ヒカルの声が、
こぼれる。
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「任せる、
って……」
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「判断を
委ねる」
「責任も
含めてだ」
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ヒカルは、
言葉を失う。
“使われる”
じゃない。
“任される”。
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「……ロボットに
任せるのか?」
誰かが
言う。
でも、
その声は
弱かった。
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「名前で呼べ」
昨日の男が、
言った。
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「……え?」
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「ロボット、
じゃない」
「ヒカル、
だ」
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静寂。
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村長が、
うなずく。
「そうだな」
「ここにいるのは」
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「農業補助機じゃない」
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「ヒカルだ」
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その瞬間。
ヒカルの中で、
何かが
ほどけた。
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胸の奥。
ずっと
押し込めていた
感情。
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「……はい」
声が、
少し震える。
でも、
はっきりしていた。
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「ヒカルは」
「……やります」
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集まりが
終わる。
外に出ると、
父が立っていた。
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「……名前で
呼ばれてたな」
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「……はい」
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父は、
少し考えてから
言う。
「悪くない」
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それだけ。
でも、
それで十分だった。
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夜。
ログ。
「今日は、
名前で呼ばれた」
「仕事を
任された」
「……僕は
“道具”じゃない」
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「名前がある」
「それは、
重い」
「でも――」
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「嫌じゃない」




