第3話 庇う声
その日は、
作業の途中で
小さな問題が起きた。
畑の一角。
水の引き方が、
少しだけ違っていた。
「誰が決めた?」
苛立った声。
視線が、
ヒカルに向く。
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「……僕です」
ヒカルは、
一歩前に出た。
「……昨日の
水量を見て、
変えました」
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「勝手に決めるな」
強い言い方。
「前からのやり方が
あるだろう」
空気が、
張りつめる。
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ヒカルは、
言葉を探す。
説明は、
できる。
でも――
それでも
納得しない人がいる。
そういう時もある。
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「……すみません」
そう言いかけた、その時。
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「違う」
低い声が、
割って入った。
年配の男だった。
あの、
最初に反対していた男。
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「勝手じゃない」
男は、
ヒカルを見る。
「昨日、
一緒に見た」
「水、
足りてなかった」
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「でもな――」
男は、
周りを見渡す。
「だからって
責める話じゃない」
「考えて、
動いた」
「それだけだ」
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静まり返る畑。
ヒカルは、
言葉を失った。
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「……何で
庇うんだ」
誰かが、
小さく言う。
男は、
即答した。
「前に立ったからだ」
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その言葉に、
ヒカルの胸が
ぎゅっと縮む。
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「逃げなかった」
「失敗も
認めた」
「それで
十分だろ」
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しばらくして、
村長が
うなずいた。
「……この話は
終わりだ」
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作業は、
再開された。
誰も、
ヒカルを
責めない。
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夕方。
ヒカルは、
男の横に立つ。
「……ありがとう
ございます」
少し震えた声。
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男は、
畑を見たまま
言う。
「礼を言われる
筋じゃない」
「村で
働くなら、
当たり前だ」
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ヒカルは、
小さく
うなずいた。
「……はい」
その返事は、
もう
迷っていなかった。
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少し離れたところで、
父が
その様子を見ていた。
何も言わない。
ただ、
ゆっくり
うなずいた。
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夜。
ログを書く。
「今日は、
守られた」
「父じゃない
人に」
「……村に、
入った気がした」
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守る側になるとは、
一人で
立つことじゃない。
立つ人を、
守る人が
現れること。
ヒカルは、
それを
初めて知った。




