第2話 前に立つ背中
翌日。
朝の畑は、
いつもより騒がしかった。
「水が足りない」
「いや、
こっちが先だ」
大人たちの声が、
重なっている。
小さな揉め事。
でも、
放っておくと
大きくなる種類のもの。
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ヒカルは、
少し離れた場所で
様子を見ていた。
昔なら、
見ているだけだった。
――でも今は。
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「……少し、
聞いてもいいですか」
声を出す。
自然に、
前へ出ていた。
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「なんだ?」
「ロボットが
口出すな」
そんな声も、
まだある。
ヒカルは、
止まらない。
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「……水路は、
午前中に
こっちを流す方が
安全です」
「午後から
向こうに回せます」
理由を、
短く。
数字じゃない。
現場の話。
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「……本当に
大丈夫か?」
疑う声。
ヒカルは、
うなずいた。
「……昨日、
確認しました」
「……もし違ったら、
僕が、
直します」
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沈黙。
その時。
「……じゃあ、
それで行こう」
村長の声。
あっさりと、
決まった。
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作業が始まる。
ヒカルは、
一番前に立つ。
指示じゃない。
「……ここ、
一緒にやりましょう」
声をかける。
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昼前。
水は、
問題なく流れた。
畑に、
余計な被害はない。
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「……助かったな」
誰かが言う。
ヒカルは、
少しだけ
肩の力を抜いた。
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その様子を、
子供たちが
見ていた。
「ヒカル、
すごい!」
無邪気な声。
ヒカルは、
少し困った顔をする。
「……すごくは、
ないです」
「……前に、
立っただけです」
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夕方。
片付けの最中。
年配の男が、
ヒカルの横に立つ。
「……あの時」
ぽつりと。
「止めたの、
正解だったな」
ヒカルは、
少し驚く。
「……ありがとうございます」
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男は、
鼻を鳴らした。
「礼は、
いらん」
「前に立つなら、
覚悟だけ
持っとけ」
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ヒカルは、
うなずく。
「……はい」
迷いは、
もう
表に出なかった。
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夜。
ログを書く。
「前に、
立った」
「逃げなかった」
「……怖かったけど」
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守る側とは、
誰かの後ろに
隠れないこと。
ヒカルは、
その背中を
手に入れ始めていた。




