第13章 守る側へ 第1話 名前を呼ばれる
夕方の畑。
作業が終わり、
人がまばらになっていた。
ヒカルは、
道具を片付けながら、
空を見る。
今日も、
何事もなく終わった。
――そう思った、その時。
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「ヒカル!」
少し遠くから、
声がした。
反射的に、
振り向く。
子供だった。
あの時、
転んだ子。
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「どうした」
ヒカルは、
歩み寄る。
言葉が、
自然に出る。
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「……あのね」
子供は、
もじもじしながら
言った。
「お父さんたち、
けんかしてる」
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胸が、
少しだけ
ざわつく。
「……どこで?」
「集会所」
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ヒカルは、
一瞬、
立ち止まる。
自分が、
行っていい場所か。
考える。
でも――
子供の目が、
不安で揺れている。
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「……一緒に行こう」
そう言って、
歩き出した。
子供は、
少し驚いて、
それから
ついてきた。
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集会所の前。
中から、
声が漏れている。
「危なかっただろ!」
「だから、
言ったんだ!」
大人の声。
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ヒカルは、
深呼吸する。
ドアを、
叩く。
音は、
小さかった。
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中の声が、
止まる。
視線が、
一斉に向く。
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「……話し合い、
ですか」
ヒカルの声。
落ち着いている。
「……子供が、
不安がってます」
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沈黙。
誰かが、
視線を外す。
村長が、
ゆっくり言った。
「……すまん」
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ヒカルは、
子供の前に
立った。
「……大丈夫」
「……ここに、
います」
それは、
守る側の
言葉だった。
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子供の肩から、
力が抜ける。
「……うん」
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大人たちは、
何も言わない。
でも、
ヒカルを見る目は、
もう
以前と違っていた。
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外に出ると、
風が涼しい。
子供が、
言う。
「ヒカル、
こわくなかった?」
ヒカルは、
少し考えた。
「……こわかった」
「でも、
呼ばれたから」
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子供は、
笑った。
「ヒカルの名前、
呼んでよかった」
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ヒカルは、
その言葉を
胸にしまう。
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夜。
ログを書く。
「名前を、
呼ばれた」
「助けて、
と言われた」
「……嬉しかった」
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守るというのは、
強いことじゃない。
そこに立つことだ。
ヒカルは、
今日それを知った。




