第3話 遅れた一歩
その日の作業は、
朝から予定が詰まっていた。
ヒカルは、
昨日より少しだけ
周りを見るようにしていた。
「……今日は、
無理しません」
自分に言い聞かせるような声。
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問題が起きたのは、
昼前だった。
裏の畑の端、
水を引く溝。
流れが、
いつもより弱い。
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「……止めます」
ヒカルは、
そう言いかけて、
口を閉じた。
昨日の言葉が、
頭をよぎる。
――一人で
判断するな。
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ヒカルは、
周りを見る。
誰も、
すぐ近くにいない。
少し待てば、
人は来る。
その少しが、
遅かった。
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「うわっ!」
声。
振り向くと、
子供が一人、
足を取られて
転んでいた。
畝の端が、
崩れている。
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ヒカルは、
駆け寄った。
「……大丈夫?」
子供は、
膝を押さえている。
「……ちょっと、
痛い」
血は、
出ていない。
でも、
泣いていた。
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「何があった!」
大人たちが、
集まってくる。
空気が、
一気に張る。
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「……僕の、
判断が、
遅れました」
ヒカルは、
はっきり言った。
逃げなかった。
「……止めるべきでした」
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誰かが、
舌打ちする。
「だから、
ロボットは……」
その言葉を、
遮ったのは、
年配の男だった。
「違う」
短く、
強い声。
「判断が遅れたのは、
ロボットだからじゃない」
「任されてる人間なら、
誰でもやる」
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子供の母親が、
膝をつく。
「……ヒカル」
怒ってはいない。
「ちゃんと、
見てくれてた?」
「……はい」
「それなら、
いい」
その一言に、
ヒカルの胸が
詰まった。
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作業は、
一時中断になった。
畑の隅で、
ヒカルは立ち尽くす。
父が、
隣に来る。
「怖かったか」
「……はい」
「それでいい」
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夕方。
村長が、
ヒカルを呼ぶ。
「今日は、
判断が遅れた」
ヒカルは、
うなずく。
「……でもな」
村長は、
続けた。
「隠さなかった」
「責任から、
逃げなかった」
「だから――
任せるのは、
やめない」
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ヒカルは、
深く頭を下げた。
「……次は、
早く、
決めます」
その声は、
もう
ほとんど人間だった。
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夜。
ログを書く。
「遅れた一歩で、
人が、
泣いた」
「忘れない」
「次は、
止める」
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責任は、
重い。
でもそれは、
人に影響を
与えるからだ。
ヒカルは、
それを
身体で知った。




