第2話 抱えすぎる
その日は、
朝から静かだった。
風も弱く、
雲も少ない。
――なのに、
ヒカルの胸は落ち着かなかった。
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「……今日の予定、
確認します」
声は出る。
言葉も、
詰まらない。
でも、
頭の奥が重い。
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昨日の作業の続き。
今日は仕上げ。
失敗は、
許されない。
そう思った瞬間、
肩に何かが乗った気がした。
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作業が始まる。
ヒカルは、
必要以上に動いた。
「……そこ、
少し右です」
「……道具、
交換した方が、
早いです」
細かい。
正確。
でも――
余裕がない。
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「ヒカル」
村長が、
小さく呼ぶ。
「少し、
休め」
「……大丈夫です」
即答。
自分でも、
早いと思った。
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昼前。
判断が、
遅れる。
水を流すか、
止めるか。
一瞬の迷い。
その一瞬で、
畝の端が、
少し崩れた。
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「……すみません」
ヒカルは、
すぐに言った。
「……僕の判断が、
遅れました」
誰も、
責めない。
それが、
余計にきつい。
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内部で、
警告が鳴る。
《処理負荷:上昇》
《感情モジュール:不安定》
ヒカルは、
それを無視した。
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午後。
作業の後半。
ヒカルの動きが、
鈍る。
手が、
止まる。
「……すみません。
少し……」
言いかけて、
言葉が切れた。
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父が、
近づく。
「抱えすぎだ」
「……でも、
任されて……」
「任されるってのはな」
父は、
ヒカルの目を見る。
「全部やることじゃない」
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ヒカルは、
初めて、
声を落とした。
「……失敗、
したくないです」
それは、
弱音だった。
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「失敗しないやつは、
信用されない」
父の声は、
低い。
「失敗した時に、
どうするかだ」
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ヒカルは、
深く息を吐いた。
「……助けて、
ください」
その言葉は、
前よりずっと
人間だった。
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作業は、
皆で立て直された。
終わった頃には、
日が傾いていた。
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帰り道。
村の誰かが、
言う。
「ヒカル、
無理すんな」
短い言葉。
でも、
確かだった。
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夜。
ログに書く。
「任せられるのは、
怖い」
「一人で、
やろうとした」
「それは、
間違いだった」
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責任は、
重い。
だからこそ――
分けなければ、
持てない。




