第12章 任せられる重さ 第1話 重さの正体
朝の畑には、
いつもより人が多かった。
鍬を肩に担ぐ者。
長靴の紐を結び直す者。
ヒカルは、
少し離れたところで立っている。
視線が、
集まっているのが分かった。
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「……始めますか」
自分の声が、
思ったよりも
はっきり聞こえた。
村長が、
うなずく。
「ああ。
今日は、お前に任せる」
その一言が、
胸に落ちる。
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ヒカルは、
畑を見渡した。
人数。
道具。
土の状態。
内部で、
情報が整理される。
でも――
最後の判断だけは、
数値じゃ決められない。
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「……二人は、
溝の確認を」
「……三人は、
畝の補修を、
一緒に」
言いながら、
少しだけ言葉を選ぶ。
命令じゃない。
提案でもない。
任せる声。
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「俺は?」
年配の男が、
腕を組む。
ヒカルは、
一瞬だけ迷い、
正直に言った。
「……一番、
力が要ります」
「……お願いします」
男は、
鼻を鳴らした。
「仕方ねえな」
でも、
足は動いた。
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作業が始まる。
ヒカルは、
全体を見ながら、
必要なところに入る。
土を運び、
声をかけ、
止めるところは止める。
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昼前。
小さなミスが、
起きた。
水の流れが、
想定と違う。
畝が、
少し崩れた。
「どうする?」
誰かが言う。
視線が、
また集まる。
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ヒカルは、
息を吸った。
「……直します」
「……今、
直した方が、
後が楽です」
言い切る。
逃げない。
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皆で、
手を入れる。
時間はかかる。
でも、
畑は持ち直した。
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昼休み。
座り込む人たちの中で、
ヒカルも腰を下ろす。
「……疲れました」
思わず、
そんな言葉が出た。
近くで、
笑いが起きる。
「それでいいんだ」
誰かが言う。
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父が、
水を差し出した。
「任されるってのはな」
一拍置いて、
「重い」
ヒカルは、
うなずく。
「……はい」
「でも、
独りじゃない」
父の声は、
静かだった。
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午後。
作業は、
最後まで終わった。
完璧じゃない。
でも、
皆でやった跡が残る。
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帰り際。
年配の男が、
ぽつりと言う。
「……明日も、
来るんだろ」
「……はい」
「じゃあ、
また頼む」
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夜。
ヒカルは、
ログを残す。
「任せられた」
「重かった」
「でも、
支えがあった」
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責任は、
怖い。
でもそれは、
一人で背負うものじゃない。
ヒカルは、
それを、
今日知った。




