第2話 間に合わない
昼前。
畑の端で、
男たちが集まっていた。
「今日中に、
ここを終わらせないと」
指さされたのは、
水を引くための
細い溝。
昨日よりも、
明らかに量が多い。
ヒカルは、
その溝を見て、
少しだけ黙った。
「……今日、
ですか」
「雨が来る」
短く、
それだけ。
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作業は、
思ったよりも
厳しかった。
土が固く、
掘っても
なかなか進まない。
ヒカルは、
動きを一定に保つ。
でも――
内部で、
小さな警告が重なり始める。
《駆動部:負荷上昇》
《冷却効率:低下》
「……少し、
休んでも……」
言いかけて、
口を閉じた。
周りの視線が、
背中に刺さる。
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「遅いな」
誰かが、
言った。
「やっぱり、
ロボットだと
こうなる」
ヒカルは、
聞こえないふりをした。
でも、
手は止まらない。
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昼過ぎ。
空が、
少し暗くなる。
溝は、
まだ途中。
村長が、
腕を組む。
「……間に合わんか」
その言葉に、
胸が沈む。
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その時。
「ヒカル!」
子供の声。
振り返ると、
この前の子が、
走ってくる。
「水、
あふれてる!」
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ヒカルは、
即座に動いた。
溝の先、
水が回りきらず、
畑に染み出している。
「……ここ、
詰まってます」
手を入れる。
泥水が、
一気に流れ込む。
《耐水警告:上昇》
《動作制限、推奨》
それでも、
抜かない。
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「無茶するな!」
大人の声。
ヒカルは、
首を振った。
「……今、
止めないと」
必死な声。
少しだけ、
前より
人間っぽかった。
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詰まりが、
外れる。
水が、
正しい流れに戻る。
溝の先まで、
一気に流れた。
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その瞬間、
ヒカルの動きが、
止まった。
膝が、
少し揺れる。
《冷却限界》
《一時停止、推奨》
ヒカルは、
深く息を吐いた。
「……すみません。
少し、
休みます」
初めて、
自分から
そう言った。
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沈黙。
誰も、
すぐには
何も言わない。
村長が、
ヒカルを見る。
「……よく、
判断した」
それだけ。
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夕方。
溝は、
完全ではないが、
雨には間に合った。
作業は、
一旦中断。
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帰り道。
あの年配の男が、
ぽつりと言う。
「……全部を
一人で
やる必要はない」
ヒカルは、
驚いて
顔を上げる。
「……はい」
その返事は、
少しだけ
柔らかかった。
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家に戻ると、
父が言った。
「今日は、
無茶したな」
「……でも、
逃げませんでした」
父は、
黙って
うなずいた。
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夜。
ログに、
短く記す。
「間に合わなかった」
「でも、
止められた」
「一人じゃ、
できない」
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信頼は、
まだ途中。
でも――
壊れてはいなかった。




