第11章 信頼を試される 第1話 任せてみる
朝の畑は、まだ冷えていた。
土の匂いが、夜の名残を抱えたまま残っている。
ヒカルは畑の端で立ち止まり、足元を見た。
「……今日、
仕事……ありますか」
声は、まだ少し硬い。
村長ではない、
顔なじみでもない男が、
ヒカルを見る。
「用水路の掃除だ」
短い言葉。
「簡単な仕事だ。
無理なら、途中でやめろ」
⸻
用水路は、
落ち葉と泥で詰まりかけていた。
ヒカルはしゃがみ、
手を伸ばす。
「……流れ、
止まってます」
「見りゃ分かる」
男の声は、
冷たい。
ヒカルは、
何も言い返さず、
泥を掻き出した。
⸻
手袋が、
すぐに濡れる。
内部で、
警告音が小さく鳴る。
《耐水性能:C
長時間作業、注意》
ヒカルは、
少しだけ動きを遅くした。
「……少しずつ、
やります」
「好きにしろ」
⸻
しばらくすると、
水が流れ始めた。
細い音。
それだけで、
胸が軽くなる。
「……流れ、
戻りました」
男は、
ちらりと見る。
「……ああ」
それだけだった。
⸻
その時。
「ヒカル!」
高い声がした。
振り返ると、
子供が数人、
用水路の近くに集まっている。
「危ないぞ!」
男が、
声を荒げる。
子供の一人が、
足を滑らせた。
⸻
ヒカルは、
考えるより先に動いていた。
体を前に出し、
子供を引き寄せる。
泥水が、
腕にかかる。
《耐水警告:上昇》
それでも、
離さなかった。
「……大丈夫?」
子供は、
うなずく。
⸻
「何やってる!」
男が叫ぶ。
「ロボットが、
余計なことをするな!」
ヒカルは、
立ち上がる。
泥だらけのまま。
「……僕が、
目を離しました」
「……すみません」
はっきり言った。
⸻
男は、
言葉に詰まる。
子供が、
小さく言う。
「……ヒカル、
ありがとう」
その声は、
確かだった。
⸻
作業が終わる頃、
用水路は、
きれいに流れていた。
ヒカルの腕は、
少し重い。
でも、
足取りは軽かった。
⸻
帰り際。
別の村の男が、
声をかける。
「……次は、
畑の手伝い、
頼めるか」
ヒカルは、
一瞬驚き、
それからうなずいた。
「……はい」
⸻
遠くで、
父が見ていた。
何も言わない。
でも、
目を逸らさなかった。
⸻
信頼は、
まだ形にならない。
それでも――
確かに、
試され始めていた。




