第5話 席が空いている
■知らせ
夕方。
父が、
少し硬い顔で戻ってきた。
「……寄り合いだ」
ヒカルは、
顔を上げる。
「……村の?」
「ああ」
父は、
一瞬言葉を選ぶ。
「……お前の話が、
出た」
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■迷い
ヒカルの胸で、
何かが動く。
「……行った方が、
いいですか」
父は、
即答しない。
母が、
代わりに言う。
「無理に行かなくていいのよ」
ヒカルは、
少し考える。
そして――
「……聞いて、
ほしいです」
それは、
初めて自分から
出した意思だった。
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■集会所
古い木の建物。
中には、
村の大人たち。
ざわめきが、
一瞬止まる。
「……来たぞ」
誰かが、
小さく言う。
ヒカルは、
一歩、足を進める。
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■空いた席
長机の端。
一つ、
空いている席。
誰も、
「座れ」とは言わない。
でも――
誰も、
止めなかった。
ヒカルは、
そこに座る。
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■始まる話
「……最近な」
村長が、
口を開く。
「用水路や畑のことで、
助かったという声がある」
視線が、
ヒカルに集まる。
ヒカルは、
逃げない。
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■反対の声
「だがな」
あの年配の男が、
言った。
「信用ってのは、
簡単じゃない」
空気が、
少し重くなる。
ヒカルは、
息を吸う。
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■ヒカルの言葉
「……全部、
信用してくださいとは、
言いません」
静かな声。
「……僕も、
まだ、
わからないことが多い」
言葉が、
続く。
「でも……
頼まれた仕事は、
ちゃんとやります」
「……できない時は、
できないと、
言います」
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■沈黙
誰も、
すぐに返事をしない。
村長が、
うなずく。
「……それで、
十分だ」
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■決まること
「当面は、
人手が足りない仕事を
手伝ってもらう」
村長の声。
「無理はさせない」
反対の男は、
何も言わなかった。
否定もしない。
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■立ち上がる時
集まりが、
終わる。
ヒカルは、
立ち上がり、
一礼した。
「……ありがとうございます」
言葉は、
はっきりしていた。
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■外の空気
外に出ると、
夜風が冷たい。
父が、
隣に立つ。
「……よく言ったな」
「……緊張、
しました」
「それでいい」
父は、
少しだけ笑った。
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■夜のログ
ヒカルは、
記録を書く。
「今日、
村の人と話した」
「席が、
あった」
最後に一文。
「逃げなかった」
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■変わった景色
村は、
まだ全部は変わらない。
でも――
ヒカルの居場所は、
確かに増えた。
席は、
もう空いていなかった。




