第9話 見ている人たち
■いつもの午後
次の日も、
その次の日も。
子どもは来た。
「こんにちは、ヒカル」
――……コ……ン……ニ……チ……ハ……
発音は、
もうほとんど途切れない。
子どもは、
それを不思議がらない。
当たり前みたいに、
受け取る。
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■言葉が増える
「今日は何するの?」
――……キ……ョ……ウ……ハ……
ヒカルは、
少しだけ考える。
「……畑、
見る」
言葉が、
繋がった。
「おお」
子どもが目を丸くする。
「しゃべれるじゃん」
ヒカルは、
少し照れた。
「……少し、
だけ」
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■聞いている人
畑の向こう。
作業をしながら、
村の大人たちが
ちらちらと視線を向ける。
「……話してないか?」
「ロボットが?」
最初は、
噂話。
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■自然な会話
「畑って、
大変?」
子どもが聞く。
「……大変。
でも……
楽しい」
「へぇ」
「……土、
毎日、
違う」
それは、
教科書の言葉じゃない。
実感のこもった、
言葉だった。
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■変わる空気
ある日。
畑の横を通りかかった
中年の男が、
足を止めた。
「……本当に、
考えて喋ってるな」
誰に向けたでもない一言。
ヒカルは、
一瞬だけ固まる。
子どもが言う。
「ヒカル、
畑好きなんだよ」
「……そうか」
男は、
それ以上何も言わずに
立ち去った。
でも――
その声は、
もう嘲りじゃなかった。
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■父の気づき
夕方。
父が言う。
「……最近、
視線が違う」
――……ミ……テ……ル……?
「見てる」
父は、
少しだけ口元を緩める。
「……悪くない」
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■夜のログ
ヒカルは、
ログを書く。
「今日、
話した」
「聞いてくれた」
文章は、
もう短文じゃない。
言葉が、
“並び始めていた”。
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■静かな変化
村は、
まだ何も言わない。
でも――
笑わなくなった。
それだけで、
十分だった。




