第8話 知らない声
■午後の畑
午後。
ヒカルは、
畑の端に立っていた。
今日は、
見るだけ。
――……ミ……ル……
父は、
少し離れた場所で作業をしている。
手は動かしつつ、
視線は外さない。
⸻
■足音
その時。
土を踏む、
軽い足音。
ヒカルは、
すぐには振り向けなかった。
――……?
「……ねえ」
小さな声。
少し高い。
ヒカルは、
ゆっくりと首を動かす。
⸻
■子ども
そこにいたのは、
村の子どもだった。
小学校低学年くらい。
帽子を被り、
長靴を履いている。
「……ロボット?」
率直な一言。
――……ロ……ホ……゛……
「動くの?」
ヒカルは、
少し考える。
――……イ……マ……
――……チョ……ッ……ト……
「ちょっと?」
――……ウ……ン……
子どもは、
ぱっと顔を明るくした。
⸻
■距離
「名前あるの?」
――……ヒ……カ……ル……
「へぇ」
子どもは、
一歩近づく。
ヒカルは、
一瞬だけ後ずさる。
――……ア……
「大丈夫だよ」
子どもは、
何気なく言った。
「触らないから」
――……ア……リ……カ……゛……ト……
その言葉は、
前よりも
途切れなかった。
⸻
■質問
「なんで、
ここにいるの?」
――……ノ……ウ……カ……
「おじさんの?」
――……ハ……イ……
「ふーん」
子どもは、
畑を見回す。
「畑、好き?」
ヒカルは、
すぐには答えなかった。
でも――
――……ス……キ……
「じゃあ、
一緒だ」
子どもは、
にっと笑った。
⸻
■見ている人
少し離れた場所で、
父が作業の手を止める。
声はかけない。
ただ、
様子を見る。
ヒカルが、
誰かと話している。
それだけで、
十分だった。
⸻
■別れ
「また来ていい?」
――……タ……フ……゛……ン……
「たぶん?」
子どもは笑う。
「じゃあ、
またね、ヒカル」
走り去る背中。
ヒカルは、
しばらくその場に立っていた。
――……マ……タ……
その言葉は、
もうほとんど
人間の発音だった。
⸻
■夕方
家に戻る途中。
父が言う。
「……話せたな」
――……ハ……イ……
「怖くなかったか」
ヒカルは、
少し考えてから答えた。
――……ス……コ……シ……
――……テ……゛……モ……
――……ウ……レ……シ……カ……ッ……タ……
父は、
それ以上何も言わなかった。
ただ、
歩く速度を
少しだけ合わせた。




