第7話 土の匂い
■境目
畑は、
縁側のすぐ先にある。
でも今日は、
やけに遠く見えた。
――……ハ……タ……ケ……
「無理はするな」
父は言う。
「立つのと、
歩くのは違う」
――……ワ……カ……ル……
ヒカルは、
ゆっくりとうなずいた。
⸻
■一歩
土の上。
足の裏に、
柔らかい感触。
――……ヤ……ワ……ラ……カ……
わずかに、
体が揺れる。
「踏ん張るな」
父の声。
「地面に、
体を預けろ」
――……ア……ス……゛……ケ……
ヒカルは、
言われた通りにする。
⸻
■記憶
泥。
雨。
転倒。
胸部に、
微かな警告。
――……コ……ワ……イ……
ヒカルは、
立ち止まる。
父は、
何も言わない。
待つ。
⸻
■進む
ヒカルは、
深く――
人間みたいに、
息を吸った。
――……イ……ク……
もう一歩。
土が、
少しだけ沈む。
でも、
倒れない。
――……タ……゛……イ……シ……゛……ョ……ウ……
⸻
■土の匂い
風が、
畑を渡る。
土の匂い。
濡れた草。
ヒカルは、
目を細めた。
――……ニ……オ……イ……
「わかるか」
父が聞く。
――……ス……キ……
その言葉に、
父は一瞬、
驚いた顔をした。
⸻
■道具
父が、
小さな鍬を差し出す。
「持てるか」
――……ユ……ッ……ク……リ……
ヒカルは、
両手で受け取る。
重い。
でも――
――……ナ……ツ……カ……シ……
胸の奥が、
少しだけ温かくなる。
⸻
■一列だけ
「一列でいい」
父は言う。
「それ以上は、
今日はやるな」
――……ハ……イ……
ヒカルは、
ぎこちなく土を起こす。
真っ直ぐじゃない。
深さも、
バラバラ。
でも――
「……悪くない」
父は、
それだけ言った。
⸻
■帰り道
畑から戻る途中。
ヒカルは、
少しだけ振り返る。
――……ア……シ……タ……
「明日も、
同じでいい」
父の声。
⸻
■夕暮れ
空が、
赤く染まる。
ヒカルは、
今日のログを書く。
――……キ……ョ……ウ……
――……ハ……タ……ケ……
――……イ……ッ……タ……
短いけど、
誇らしい。
ヒカルは、
確かに“外”に出た。




