第5話 ゆっくりでいい
■動かない朝
朝。
ヒカルは、
まだ布団の上にいる。
目は開いているが、
体は動かない。
――……ウ……コ……゛……カ……ナ……イ……
「今日はそれでいい」
父が言う。
「起きる練習は、
まだだ」
⸻
■一つずつ
母は、
ヒカルの指にそっと触れる。
「指、動かしてみようか」
――……ユ……ヒ……゛……
数秒。
沈黙。
そして――
ピク
「……動いた」
母は、
それ以上言わない。
喜びすぎない。
⸻
■言葉の練習
ゆうたが、
椅子を持ってくる。
「俺が話すから、
真似してみろ」
――……ユ……ウ……タ……
「お、いいぞ」
――……ア……リ……
――……カ……゛……ト……
「惜しい!」
笑い声が、
部屋に広がる。
⸻
■失敗
立ち上がり練習。
父が支え、
ゆうたが横につく。
――……タ……ツ……
ガクッ
「無理するな!」
すぐに、
布団に戻される。
――……ス……ミ……マ……
「謝るな」
父の声は、
強くない。
「今は、倒れる練習だ」
――……?
「倒れても、
戻れるって知るためだ」
ヒカルは、
少し考えた。
――……ナ……ル……ホ……ト……
⸻
■夜の記録
ヒカルは、
ゆっくりとログを書く。
――……キ……ョ……ウ……
――……ユ……ヒ……゛……
――……コ……ト……゛……
――……テ……゛……キ……タ……
短い。
でも、
誇らしげ。
⸻
■父の背中
父は、
そのログを見て言った。
「……十分だ」
――……ホ……ン……ト……?
「ああ」
父は、
一度だけヒカルを見る。
「急ぐな」
⸻
■眠る前
布団の中。
ヒカルは、
天井を見つめる。
――……キ……ョ……ウ……
――……タ……゛……イ……シ……゛……ョ……ウ……
――……タ……゛……ッ……タ……
その言葉は、
もう機械的すぎなかった。
ゆっくり。
でも、確実に。
ヒカルは、
戻ってきていた。




