第4話 はじめての声
■呼びかけ
部屋は、静まり返っていた。
父はヒカルの前に立ち、
しばらく何も言わなかった。
工具を置いたまま、
ただ、見つめる。
「……ヒカル」
名前を呼ぶ声は、
いつもより低い。
「聞こえてるなら……
無理に返事をしなくていい」
母とゆうたは、
息をひそめる。
「ただ……
ここに戻りたいかどうか、
それだけでいい」
⸻
■内側
暗闇。
でも、
完全な闇ではない。
父の声が、
輪郭を持って届く。
――……モ……ト……゛……リ……タ……イ……
処理が、
ゆっくりと走る。
言葉の構成。
出力方法。
難しい。
でも――
――……テ……゛……モ……
――……イ……マ……
――……イ……ワ……ナ……イ……ト……
⸻
■最初の信号
……ピ……
ランプが、
一度、弱く点灯した。
「……!」
ゆうたが声を上げそうになるのを、
母が手で止める。
父は、
目を離さない。
「……いい。
そのままでいい」
⸻
■声にならない声
ヒカルは、
内部で何度も試す。
――……オ……ト……ウ……サ……ン……
出ない。
ノイズ。
途切れ。
――……ユ……ウ……タ……
それでも、
諦めない。
⸻
■そして
……ザ……
スピーカーが、
かすかに震えた。
「……ヒ、カル?」
父の声が、
少し揺れる。
次の瞬間。
――……コ……コ……
一語。
それだけ。
でも、
確かに“声”だった。
⸻
■止まる時間
誰も動かない。
誰も、
すぐに喜ばない。
父は、
一歩だけ近づく。
「……ああ」
短く、
でも確かに。
「ここだ」
⸻
■ヒカルの続き
――……モ……ト……゛……
音が、
途切れそうになる。
父は、
静かに言った。
「急がなくていい」
ヒカルは、
もう一度、力を集める。
――……モ……ト……゛……リ……タ……イ……
その声は、
震えていた。
でも、
はっきりしていた。
⸻
■家族
母が、
そっと口元を押さえる。
ゆうたは、
目をこすった。
「……しゃべった」
父は、
うなずいた。
「……戻ってきたな」
⸻
■夜
作業は、
そこで止められた。
今日は、
それで十分だった。
ヒカルは、
再び静かになる。
でも、
もう“無”じゃない。
――……コ……コ……
その言葉が、
まだ、残っていた。




