第3話 手が止まるとき
■順調だったはずの作業
午前中。
父の作業は、静かに進んでいた。
腐食部分の削り出し。
補強材の固定。
仮配線。
「……ここまでは、想定通りだ」
父は独り言のように言う。
母とゆうたは、
少し離れて見守っていた。
⸻
■予想外
父が電圧を調整し、
再起動テストに入った、その時。
バチッ
一瞬、
小さな火花。
「……っ」
父の動きが止まる。
表示が、
乱れる。
――ERROR――
――CORE RESPONSE LOW――
「……まずいな」
父は、
ゆっくりと工具を置いた。
⸻
■沈黙
部屋の空気が、
張りつめる。
「父さん……」
「待て」
ゆうたの声を、
父は制した。
父は、
ヒカルの胸部に手を当てる。
「……ここだ」
低く、
確信のある声。
「核心部に、
水が回ってる」
母が息をのむ。
「それって……」
「下手に触れば、
完全に壊れる」
⸻
■迷い
父は、
しばらく動かなかった。
額に、
汗がにじむ。
「……俺は」
ぽつりと。
「機械は直せると思ってきた」
父の指が、
わずかに震える。
「だが……
これは“機械”だけじゃない」
視線が、
ヒカルに向く。
「失敗したら……
もう戻らん」
⸻
■ヒカルの内側
暗闇の中。
警告が、
走る。
――……キ……ケ……ン……
――……シ……ス……テ……ム……
でも、
父の声が聞こえる。
――……ト……マ……ラ……ナ……イ……
ヒカルは、
必死に信号を送る。
――……タ……゛……イ……シ……゛……ョ……ウ……
――……タ……゛……イ……シ……゛……ョ……ウ……
声にならない。
⸻
■父の決断(もう一度)
父は、
深く息を吸った。
「……やる」
短く。
「ここで止めたら、
最初から直さなかったのと同じだ」
ゆうたが言う。
「父さん……」
「怖いさ」
父は、
はっきり言った。
「だがな……
怖いから触らないのは、
一番ダメだ」
⸻
■手を入れる
父は、
核心部に工具を差し入れる。
慎重に。
慎重に。
時間が、
異様にゆっくり流れる。
⸻
■止まる音
作業音が、
ふっと止んだ。
「……」
父は、
しばらく動かない。
誰も、
声を出せない。
そして――
「……よし」
小さく、
確かな声。
「最悪は、
避けた」
⸻
■でも、完全じゃない
「ただし……」
父は続ける。
「ここから先は、
ヒカル自身が
戻ろうとしなきゃダメだ」
母が言う。
「どういうこと?」
「……呼びかけるしかない」
父は、
ヒカルを見つめた。
⸻
■ヒカルの内側
暗闇の中。
――……モ……ト……゛……リ……タ……イ……
その想いが、
少しだけ、
強くなった。




