第2章 ポンコツだけど役に立ちたい 第1話 ヒカル、初めて褒められる
翌朝の納屋は、ほんのり静かで、ほんのり泥くさい。
そしてその中心で――ヒカルが体育座りのような姿勢で待機していた。
『……ゆうた、起動時間……デス。オハヨウ……ございます』
昨日よりスムーズに喋れている。
ゆうたは寝ぼけ顔のまま笑った。
「ヒカル、おはよう! 昨日すごかったよ」
『昨日……すごかった? ワタシ、泥ニ……沈ンダ、ダケ……』
「でもカモ追い払ったじゃん。あれはうちのヒーロー!」
ヒカルの胸が、ぽっと明るく光った。
『ヒーロー……。ヒカル、ヒーロー……候補、デス』
「候補なんだ(笑)」
お母さんが納屋から顔を出す。
「ゆうた、ごはんできたわよ。ヒカルも来る?」
『ハイ! イキマス! ……あっ、イキマス……よ』
言葉が少し人っぽくなる瞬間。
その成長が、ゆうたにはたまらなく愛しかった。
⸻
朝食の席。
おじいちゃんは新聞を読みながら、珍しくにこにこしていた。
「昨日のヒカル、よかったなぁ。あれ見てちょっと感動したぞ」
すると、父が珍しくチラッとヒカルを見て言う。
「……まあ、あんだけ泥に埋まりながら追い払ったのは、大したもんだな」
『ダ、ダイシタ……モノ? ワタシ……?』
「そうだよ。よくやったな、ヒカル」
ヒカルが固まった。
胸のライトが、これまでにないほど明るく灯る。
『ワ、ワタシ……初めて……ホメ、ラレマシタ……』
「え、今まで一度も?」
『昨日ハ……反省点オオイ……ト。毎日……泥……デス。ダカラ……』
「それはほめてるんじゃないね!」
おばあちゃんも笑いながら頭を撫でた。
「ヒカルは頑張り屋さんだよ。もっと自信を持ちな」
『ガンバリ……マス……! モット、うまく……ナリタイ……!』
⸻
そして午前。
今日はおじいちゃんに付いて、田んぼ仕事の“基本”を学ぶ日だった。
「まずは畦を歩く練習だな。昨日みたいに転ばなきゃ大成功!」
『了解! 転倒……シナイ。転倒……シナイ……』
「ヒカル、呪文みたい(笑)」
ヒカルは慎重に一歩ずつ足を進めた。
昨日のように勢いで突っ込むのではなく、ちゃんとバランスを取りながら。
『ゆうた、みて……くだサイ。ワタシ、歩ケ……てマス!』
「すごい! 昨日よりずっと上手!」
ヒカルは胸を張り――
ズルッ。
『あああーーッ!!』
次の瞬間、畦から転がり落ちた。
でも今日は違う。
泥に沈む前に、ギリギリで踏ん張った。
『……セーフ……デスッ! 沈ミ……マセン、デシタ!』
「ほんとだ! 成長してる!」
おじいちゃんもぱちぱちと拍手する。
「よしよし、今日はそれで十分だ!」
ヒカルは誇らしげに胸を光らせた。
『ホメラレ……ル……ノ……とても……ウレシイ、デス』
ゆうたはそっとヒカルの手を握った。
「ヒカル、これからもっと成長できるよ。一緒にやろうね」
『ハ……イ! ゆうた。イッショニ……ガンバリマス!』
その声は昨日よりもやわらかく、温かく、人間らしくなっていた。




