第9章 変わり始める視線 第1話 直す理由
■朝の準備
朝。
父は誰よりも早く起きていた。
作業台に並べられた部品。
油、布、古い設計図。
新品じゃない。
どれも年季が入っている。
「……」
父は黙ったまま、
袖をまくった。
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■反対の声
「本当にやるの?」
母が聞く。
「業者に頼んだ方が、
確実じゃない?」
父は手を止めずに答えた。
「確実だから、やらない」
ゆうたが顔を上げる。
「父さん……?」
「壊れた場所を、
他所に持っていかせたくない」
父は、
ヒカルを見る。
「こいつは、
この家で倒れた」
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■父の過去
父は、
錆びたボルトを外しながら言った。
「昔な、
道具を一つ壊したことがある」
ゆうたは黙って聞く。
「無理をさせて、
無視して、
最後は折れた」
父は、
ボルトを置いた。
「直せたかもしれん。
でも、
捨てた」
沈黙。
「……今回は、
同じことはしない」
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■開ける
外装が外され、
内部が露わになる。
錆。
水の痕。
「思ったより、
やられてるな」
父は、
それでも眉をひそめない。
「……だが、
致命的じゃない」
その言葉に、
母が息をつく。
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■迷い
手を止めた瞬間。
父の指が、
わずかに震えた。
「……俺はな」
ぽつりと。
「直せなかったら、
また失うのが怖い」
ゆうたが言う。
「でも、
やらなかったら……
もっと後悔する」
父は、
ゆっくりとうなずいた。
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■父の決意
「だから直す」
短く、
それだけ。
「うまく動かなくてもいい。
前みたいじゃなくてもいい」
父は、
ヒカルの胸部に手を置いた。
「……戻ってこい」
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■ヒカルの内側
暗闇の中。
――……ナ……オ……ス……?
――……ワ……タ……シ……?
微かな処理音。
――……テ……゛……モ……
――……コ……ワ……イ……
それでも、
その言葉が、
確かに届いた。
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■夕方
作業は続く。
父の背中は、
一度も休まなかった。
家の中に、
工具の音が響く。
それは、
「待っている音」だった。




