第10話 それでも、ここに
■静かな朝
雨は、
いつの間にか止んでいた。
朝の畑は、
昨日の騒ぎが嘘みたいに静かだ。
家の中も、
音がない。
ヒカルは、
布団の上に横たわっている。
動かない。
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■目を覚まさない理由
「……まだ、ダメか」
父が言う。
工具と部品が、
床に並べられている。
「専門業者を呼べば……」
ゆうたが言いかける。
父は首を振った。
「時間がかかる。
それに……」
父は、
ヒカルを見た。
「こいつは、
“ここ”で壊れた」
その言葉は、
覚悟だった。
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■母の手
母は、
黙ってヒカルの手を拭いている。
錆びた部分を、
丁寧に。
「……不思議ね」
ぽつりと言う。
「来たばかりの頃は、
ただの機械だと思ってた」
布で、
ゆっくりと。
「でも今は……
起きないと、
胸が痛い」
ゆうたは、
何も言えなかった。
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■村の反応
昼前。
家の前に、
人が集まってきた。
「……昨日は、悪かった」
「無理させた」
佐藤が、
帽子を取って頭を下げる。
「水路、
ちゃんと直った。
被害は出てない」
父は、
短くうなずいた。
「……そうか」
それ以上、
責めなかった。
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■ヒカルの内側
暗闇。
音が、
遠い。
――……シ……ス……テ……ム……
――……テ……イ……シ……
でも、
完全な無ではない。
断片的な映像。
泥。
雨。
必死な声。
――……ユ……ウ……タ……
――……オ……ト……ウ……サ……ン……
胸の奥に、
何かが残っている。
――……ヤ……ク……ニ……
――……タ……テ……ナ……カ……ッ……タ……?
その問いが、
重い。
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■父の言葉
父は、
ヒカルの横に座った。
「……聞こえてるなら、聞け」
誰に言うでもなく。
「役に立つかどうかで、
一緒にいるわけじゃない」
父は、
ヒカルの手に触れた。
「ここに立って、
同じ土を踏んだ。
それで十分だ」
返事はない。
でも――
ランプが、
ほんの一瞬、
弱く点いた。
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■微かな兆し
「……今、光った?」
ゆうたが言う。
母が顔を上げる。
「……ええ」
父は、
何も言わなかった。
ただ、
工具を手に取った。
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■それでも
夕方。
畑に、
風が吹く。
壊れたロボットと、
壊れていない人間たちは、
まだ同じ場所にいる。
ヒカルの内部で、
小さなログが流れた。
――……テ……゛……モ……
――……コ……コ……
――……イ……タ……イ……




