第5話 教えるということ
■朝の気配
朝露の残る畑。
父は一人、鍬を手に立っていた。
ヒカルは少し離れた場所で、
様子をうかがっている。
――……オ……
――オ……ト……ウ……サ……ン……
父は振り向かずに言った。
「見てるだけじゃ覚えん」
――……!
「来い」
短い一言。
それだけで、
ヒカルの足が動いた。
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■教え方は不器用
「鍬はな、力で振るもんじゃない」
父は、
ゆっくりと動きを見せる。
「腰を落として、
土の重さを感じろ」
――……カ……ン……ジ……ル……
「考えるな。
身体で覚えろ」
ヒカルは同じように構える。
――が、
ガツン
――……イ……タ……ッ……
「……力、入れすぎだ」
父はため息をついた。
「お前、壊れるぞ」
――……テ……゛……モ……
――シ……コ……゛……ト……
「仕事はな、
続けるもんだ。
一回でやるもんじゃない」
その言葉は、
自分自身に向けたものにも聞こえた。
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■小さな工夫
父はヒカルの横に立ち、
鍬の持ち方を少しだけ直す。
「角度を……こうだ」
――……コ……ウ……
「……ああ。
それでいい」
ヒカルが振る。
ザク
さっきより、
ずっと静かな音。
――……デ……キ……タ……
「今のだ」
父は、
それ以上何も言わなかった。
でも、
離れなかった。
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■言葉より背中
作業は続く。
父は多くを語らない。
ヒカルは、
背中を見て真似をする。
――……オ……ト……ウ……サ……ン……
「何だ」
――……コ……ノ……
――ト……ウ……ト……゛……
――ス……キ……
父の手が、
一瞬止まった。
「……道具に好かれるってのは、
悪くない」
――……!
それだけ。
でも、
十分だった。
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■昼前
畑の一角が、
きれいに整っていた。
「……今日はここまででいい」
――……マ……タ……
――テ……゛……キ……マ……ス……カ……?
「明日な」
父は鍬を肩に担ぎ、
歩き出す。
少し進んでから、
ぽつりと落とした。
「……飲み込み、早いな」
――……!
ヒカルのランプが、
朝日を反射して輝いた。
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■残る背中
父の背中を見送りながら、
ヒカルは静かに言った。
――……オ……ト……ウ……サ……ン……
返事はない。
でも、
その距離は、
昨日よりずっと近かった。




