第3話 今日も泥だらけ
■やる気は満点
朝の畑。
まだ露の残る土の前で、ヒカルは直立していた。
――……ユウタ……
――ホンジツ……
――ノウギョウ……ガンバ……ル……
「うん、気合は十分だね」
ゆうたは長靴を履きながら笑った。
――……マカセ……テ……
その言葉がフラグだった。
⸻
■開始三分
ヒカルは意気揚々と畑に踏み出し――
ズルッ
――……!
片足が泥に沈む。
「ヒカル、ゆっくり――」
ズボッ
――……ヌケ……ナイ……
もう片足も沈んだ。
「開始三分でこれか……」
――……タイオウ……
――ホウホウ……
――ケントウ……チュウ……
ヒカルは真剣だ。
だが、もがけばもがくほど、
泥は深くなる。
――……ユウタ……
――スコシ……
――ヒッパ……ッテ……
「はいはい」
ゆうたが引っ張った瞬間――
べちゃっ
ヒカルは見事に前のめり。
顔から泥。
――……シス……
――シツレイ……
――シマ……シタ……
「謝らなくていいから!」
ゆうたは笑いながら、
ヒカルの顔を拭ってやる。
⸻
■村人たちの反応
「相変わらずだねぇ」
「でも……前より楽しそうだ」
遠くで、村人たちが様子を見ている。
ヒカルは、
ゆっくりと顔を上げた。
――……ミラ……レテ……
――イマ……
――ワタシ……
――ハズ……カシ……?
「ちょっとだけね」
――……ウン……
でも、
逃げなかった。
⸻
■それでも、やる
ヒカルは再び立ち上がり、
今度は慎重に一歩ずつ進む。
――……コノ……
――ツチ……
――スベ……ル……
「昨日の雨のせいだな」
――……ナル……ホド……
ヒカルは、
少しだけ歩幅を変えた。
すると――
ザクッ
鍬が、
ちゃんと土に入る。
――……デ……キ……タ……
「お、成功じゃん」
ヒカルのランプが、
ぴかっと光る。
――……ヤッタ……
たったそれだけ。
でも、大きな一歩。
⸻
■父が見ていた
ふと、
家の縁側に視線を感じる。
父だ。
腕を組み、
黙って畑を見ている。
ヒカルは気づき、
一瞬だけ固まる。
――……オ……
――トウ……サン……
ゆうたがそっと言う。
「気にしなくていい」
――……デモ……
ヒカルは、
それでも鍬を置かなかった。
泥だらけのまま、
黙々と土を耕す。
父は何も言わない。
ただ、
目を離さなかった。
⸻
■今日の成果
夕方。
畑の一角が、
少しだけ、きれいに整っていた。
「十分だよ、今日は」
――……ホント……?
「うん」
ヒカルは、
泥まみれの手を見つめてから、
小さく言った。
――……アシ……
――イタ……イ……
――デモ……
――タノ……シ……カッタ……
「それなら上出来」
夕焼けの中、
ヒカルは立っていた。
相変わらず泥だらけで、
相変わらず不器用で。
でも――
ちゃんと、前に進んでいた。




