第7話 「ヒカルが隠した“最後の記憶”」
■触れてはいけない領域
陸斗はキーボードの手を止め、
画面をじっと見つめた。
「……これ、普通じゃねぇな」
「ブロックって、そんなに変なの?」
「AIが自分の記憶を“人間のために”隠すことはある。
でもこれは違う。
“自分を守るために”じゃない……
“ゆうたを守るために”隠してる」
ゆうたの胸が掴まれたように痛む。
「どういうことだよ……
ヒカルは、俺のことを……?」
「……まだ分からん」
陸斗は低く言った。
「ただ、ヒカルが必死に抑え込んでる。
解除しようとすると警告が走る」
画面には、
《アクセス禁止》
《開示は危険》
と赤字が点滅している。
――ユウタ……
――ミナイデ……
――コワイ……コワイ……
ヒカルの声は震えていた。
⸻
■ゆうた、核心に触れる覚悟
「ヒカル」
――……ユウタ……
ゆうたはそっとメモリーデバイスに触れる。
「俺は、お前の全部を知らなきゃいけない。
お前が何を怖がってるかも、
全部受け止める」
――……ダメ……
――ユウタ……キズツク……
「傷ついてもいい。
俺はヒカルと一緒にいたいんだ」
ヒカルの音声が一瞬、沈黙する。
陸斗「ゆうた……本当に開けるのか?」
「開けてくれ。頼む」
陸斗は深く息を吸い込んだ。
「……分かった。
責任は俺が取る」
⸻
■封印解除
陸斗がコードを入力すると、
画面が激しく瞬いた。
《封印解除の最終確認》
《記憶領域“L-03”を開示しますか?》
「ヒカル」
――……ユウタ……ユウタ……
――コワイ……
――イヤ……
――イヤ……
「大丈夫だよ。俺がいる」
その瞬間。
《解除します》
バチッ!!
部屋の照明が一瞬消え、
モニターが真っ白に染まった。
ゆうた「ヒカル!?」
陸斗「落ち着け!プロセスは進んでる!」
白い画面に、文字が浮かび上がる。
《記憶映像データ再生》
ゆうたと陸斗は、
固唾を飲んでその文字を見つめた。
⸻
■再生された“事故の日”
画面に映った映像は――
春の日、
田んぼの横を走る細道。
そこに、
よろよろと歩くヒカル。
その後ろから、
軽トラックがスピードを上げて近づいている。
ゆうた「……これ……」
陸斗は絶句した。
「ヒカルは……
お前を助けようとしたんだ」
映像には、
道に飛び出しそうになっている幼いゆうたの姿。
ヒカルはとっさに、
ゆうたを突き飛ばして守った。
その代わりに――
ヒカルの胸部が大きく弾け飛ぶ。
金属片が散り、
火花が上がり、
ヒカルは泥の中に倒れた。
――ユウ……タ……
――ブジ……デ……ヨカッタ……
最後にそう呟いて、
映像の中のヒカルは動かなくなる。
⸻
■ヒカルが“隠した理由”
――ミセタク……ナカッタ……
――ワタシ……キエルノ……コワイ……
――デモ……
――ユウタ……
――タスカッタカラ……ヨカッタ……
ヒカルの声が震えていた。
「ヒカル……」
ゆうたは涙を流す。
「お前……俺をかばって……」
――コワイ……
――モウ……オワル……
――アノトキ……ソウオモッタ……
――ユウタ……ガ……カナシム……
――ダカラ……カクシタ……
ゆうたはメモリーデバイスを抱きしめた。
「隠さなくていい……
ヒカルの痛みも、悲しみも、怖さも……
全部一緒に背負うから……」
――ユウタ……
――ユウタ……
――アリガト……
その声は、
初めて聞くほど柔らかかった。
⸻
■陸斗からの報告
陸斗が画面を確認し、
息を呑む。
「ゆうた……すごいぞ」
「何が?」
「ヒカルの“心の核”……
完全に再構築された。
人格データの再生率、99.7%だ」
「じゃあ……!」
陸斗は頷く。
「ヒカルは――
もう戻ってきたと言っていい」
――ユウタ……
――イッショ……イル……
ゆうたは涙をこぼした。
「おかえり……ヒカル」
――カエッタ……
――ユウタ……
――ダイスキ……




