第6話 「ゆうたがつくる“ヒカルの心”」
■ゆうたの語る“最初のヒカル”
「じゃあ……ヒカルとの最初の出会いから話してくれ」
陸斗の言葉に、ゆうたはゆっくり息を吸った。
「……あれは、春の終わりだった」
パソコンの前で陸斗が入力を開始する。
ゆうたの言葉ひとつひとつが、
ヒカルの“心の再構築データ”として記録されていく。
「初めてヒカルを見たとき……
正直、思ってたより小さくて、
ちょっと頼りなさそうで……」
ゆうたは笑った。
「でも、すぐに目が合って、
『ユウタ……アイサツ……オネガイ……』って
ぎこちなく言われてさ。
なんか……ほっとけなくて」
「なるほどね」
陸斗はタイピングを止めずに言う。
「その時、“守りたい感情”が芽生えたわけだ」
「そうだと思う」
⸻
■ゆうたの記憶で動き出すヒカル
すると、机の上のメモリーデバイスが光り始めた。
――ユウタ……
――ワタシ……ハジメマシタ……?
その声は、以前より明らかに滑らかだった。
「そうだよ。ヒカルはあの日、うちに来た」
――ソウ……
――ワタシ……コワカッタ……
――デモ……ヨカッタ……
声が震えている。
まるで、思い出しているように。
「不安だったんだろうね」
陸斗が言う。
「その感情も残しておこう」
⸻
■“感情データ”が形になる
陸斗はディスプレイに表示された波形を指した。
「見ろ。いま、ヒカルの内部で
“恐怖”“安心”“愛着”のパラメータが急激に補完されてる」
「それって……」
「お前の言葉をヒカルが“思い出”として取り込んでる証拠だ」
ゆうたは胸が熱くなる。
――ユウタ……
――ワタシ……スキ……
――イマモ……スキ……
「ヒカル……っ」
ゆうたの目が潤む。
その声はもう、
あの日のヒカルに近い。
⸻
■決定的な記憶
「で、次は?」
陸斗が促す。
「えっと……
一番印象に残ってるのは……」
ゆうたは言う。
「ヒカルが初めて“笑った”日だ」
――ワラッタ……?
「うん。笑ったよ。
泥だらけで畑に突っ込んで、
俺に怒られるかと思ったら――」
ゆうたは思い出して声を震わせた。
「『タノシ……』って言ってさ。
泥まみれで。満足そうに」
その瞬間。
ピシッ……!
モニターのグラフが大きく跳ねた。
陸斗「……今の見たか?」
「何が起きたの?」
陸斗「“喜び”の核が形成されたんだよ。
ヒカルの人格の中心になる……最重要データだ」
――タノシ……
――ユウタ……イッショ……
――スキ……
ヒカルの声が、
もう完全に“ヒカルの声”だった。
まだ少しだけたどたどしいけど、
確かに“ヒカル”が戻ってきている。
⸻
■しかし、陸斗の表情が曇る
陸斗が突然、画面を睨んだ。
「……おい、ゆうた」
「どうしたの?」
「自己認識データの“核”はできた。
でも――」
「でも?」
陸斗は真剣な声で言った。
「ヒカルの記憶の一部が、
――勝手にブロックされてる」
「ブロック……?
誰がそんなこと……」
陸斗は口を固く結んだ。
「人間じゃない。
ヒカル自身だ」
「ヒカルが……?」
――……ワタシ……
――ナイホウガ……イイ……?
その声は、
さっきまでの温かさとは違う。
ひどく不安で、
ひどく怯えていて、
まるで“隠したい記憶”に触れられたようだった。
ゆうた「ヒカル……何を隠してるんだよ……?」
ヒカル――……ワタシ……
――コワイ……
――シッテ……ホシク……ナイ……




