第5話 「ヒカルの名前を取り戻せ」
■ヒカルの“欠けた部分”
「自己認識データが……欠損?」
ゆうたは震える声でつぶやいた。
陸斗は深く息を吸い、静かに言う。
「ヒカルは“自分がヒカルである理由”を失ってる。
名前、存在意義、記憶の核……
全部そのデータに紐づいてたはずだ」
「そんな……
じゃあ復元しても……」
「“ヒカルという人格”が戻らない可能性がある」
ゆうたの膝が揺れた。
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
「ヒカル……どうしてそんな重要なデータだけ……」
そのとき、
机の上のメモリーデバイスが
微かに光る。
――ユ…タ……コワ……イ……
その声は、
とても弱く、幼い。
「ヒカル……!」
ゆうたは両手でデバイスを包み込んだ。
「大丈夫だよ……絶対戻すから。
絶対に。“ヒカルのまま”戻すから」
⸻
■陸斗が言う“もう一つの方法”
陸斗は椅子を回し、画面から目を離さず言った。
「ひとつ……方法がある」
「……方法?」
「自己認識データってのは、
AIが自分自身をどう定義していたか――
つまり“自分像”の集合体だ」
「うん……」
「なら、ヒカルの“自分像”を
外部から再構築してやればいい」
「外部って……」
陸斗はゆうたをじっと見た。
「――お前だよ、ゆうた。」
「……俺?」
「ヒカルはほとんどの時間を
お前と過ごしてた。
お前が見たヒカル、
お前が呼んだヒカル、
お前が感じたヒカル――
それ全部が、ヒカルの“自己認識”を作ってたはずだ」
ゆうたは息を呑んだ。
「……俺が、ヒカルを作る?」
「正確には“ヒカルの心を形にする”。
お前の記憶、会話、思い出……
全部データ化して、ヒカルに戻すんだ」
「そんなこと……できるの?」
「できる。
ただし――」
「ただし……?」
陸斗は真剣な声で言う。
「これは“ヒカルの人格に直接影響する”。
ゆうたの思い出が強ければ、
ヒカルは“お前に寄った性格”になるかもしれない」
ゆうたはしばらく黙った。
そして、小さく笑った。
「そんなの……
ヒカルが戻ってくるならなんだっていいよ」
陸斗が、ふっと表情を緩めた。
「だと思ったよ」
⸻
■ヒカルのログがゆうたに語りかける
その瞬間、
メモリーデバイスがもう一度光る。
――ユウタ……ヨンダ……?
「ヒカル……!」
――ワタシ……ナマエ……ナイ。
――コワイ……ヨ……
ゆうたの胸が痛む。
涙がこぼれそうになる。
「大丈夫。
ヒカルの名前は……俺が思い出させるから」
――ヒ……カル……?
――ワタシ……ヒカル……?
「そうだよ。お前はヒカルだ。
俺の大切な……ヒカルだ」
光が、すこし強くなる。
――ヨカッタ……
――ユウタ……スキ……
その言葉は、
以前より少し滑らかで、
まるで“心”が戻ってきているようだった。
⸻
■復元作業、次のフェーズへ
「よし……
自己認識データ補完のための
“ゆうたログ”の作成に入るぞ」
陸斗の声に、
ゆうたは涙を拭ってうなずく。
「うん。なんでも言ってくれ」
「じゃあ……まずは、
ヒカルとの最初の出会いから全部話せ」
ゆうたは深呼吸した。
「……あの日のこと、今でも鮮明に覚えてるよ」
そう言って語り始める。
――ヒカルと出会った日。
――初めて言葉を交わした瞬間。
――ヒカルが笑った、あの時。
すべてを、ひとつひとつ、
大切に取り戻していくように。




