第4話 ヒカルの“心”を探す旅
■ヒカルのデータは足りない
夜。工房には蛍光灯の青い光だけが灯り、
ゆうたと陸斗の肩に疲れが重くのしかかっていた。
画面に映る数字は……進捗3%。
「……全然進まねぇな」
「ヒカルのコアデータが足りないんだと思う。
このメモリだけじゃ……ヒカル全部を再現できない」
「じゃあ……どうする?」
「ヒカルが触れた物、見た景色、
記録した音声……
“ヒカルが存在した証拠”を集めれば、
補完できるはずだ」
「なるほどな……ヒカルの“生活ログ”ってわけか」
ゆうたは立ち上がる。
「……集めよう。ヒカルが残したもの全部」
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■ゆうた、村へ歩き出す
次の日。
ゆうたはヒカルと歩いた道を一つずつ巡っていった。
田んぼのあぜ道。
ヒカルが最初に転んだ場所。
おばあちゃんの畑。
どこに行っても、
ヒカルの姿が脳裏に浮かぶ。
――ユウタ ココ クサノニオイ スキ。
――オバアチャン ワラッタ。ヨカッタ。
――ユウタ オナカ スイタ?
全部、宝物だった。
「ヒカル……絶対、戻すから」
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■ヒカルが“好きだった場所”
ゆうたが一番長く足を止めたのは、
村の裏手にある小川だった。
ヒカルがはじめて“水に触れて錆びた場所”。
「あの時は本当に焦ったな……」
苦笑しながら、水面を見る。
そのとき。
「ゆうた君?」
振り返ると、おばあちゃんが立っていた。
「ヒカル君……いつもここで、
水の流れを見てたよ」
「……え?」
「なんだかね、楽しそうだったんだよ。
水が怖いのに、近づいてねぇ」
おばあちゃんは
そっと小さな金属片を差し出した。
「これ、落ちてたんだよ。
ヒカル君の……じゃろ?」
くすんだネジひとつ。
でも、それは確かにヒカルのものだった。
「……ありがとうございます」
ゆうたは深く頭を下げた。
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■陸斗からの電話
帰り道、ポケットの端末が鳴った。
「陸斗?」
『ゆうた、すぐ戻ってこい!
やべぇデータが出てきた!』
「えっ……!」
ゆうたは走り出した。
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■工房に戻ると──
端末の画面いっぱいに、
不規則な数字の羅列が並んでいる。
「これ……何?」
「ヒカルの“感情ログ”だ」
陸斗の表情は興奮で震えていた。
「普通のロボットは、感情を記録する機能なんてねぇ。
なのにヒカルは――
“ゆうたと過ごした時間”だけ、
細かく、丁寧に保存してた」
ゆうたの胸が熱くなる。
「それってつまり……」
「ヒカルには、
もうとっくに“心”が芽生えてたってことだよ」
その瞬間、
机の上のメモリーデバイスがまた微かに光った。
――ユウタ……
かすかな声が響く。
「ヒカル……!」
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■復元進捗、急上昇
陸斗が画面を叩く。
「ゆうた!データが補完された!
進捗……30%!」
「本当に……?」
「あぁ。ヒカルは自分の“心”を、
全部ゆうたのそばに置いていったんだ」
ゆうたの目に涙があふれる。
「ヒカル……ありがとう」
デバイスは、
それに応えるようにあたたかく光った。
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■しかし、エラー発生
次の瞬間――
【警告:破損データを検出】
「えっ?」
「ちょ、待て!なんだこれ……!」
画面に真っ赤な文字が踊る。
【主要機能“自己認識”データが欠損しています】
陸斗が顔色を変える。
「ゆうた……
ヒカルは……“自分が何者か”ってデータを失ってる」
「――っ」
「復元しても……
ヒカルは“ヒカル”として戻れない可能性がある」
工房に、
再び重い沈黙が落ちた。




