第2話 ヒカルの声を追って
■工房にて──静かな火花の匂い
陸斗の家の工房は、
油と金属の匂いと、いつもの微かな火花の音に満ちていた。
だが今日は違う。
二人の目の前の机には、
ヒカルのメモリーデバイスが置かれている。
さっきの小さな光――
あれはきっと、偶然なんかじゃない。
「よし……解析、始めるぞ」
陸斗がノート端末を立ち上げ、
慎重にデバイスを接続する。
しかし直後、端末は音を鳴らした。
【警告:アクセス権限が不足しています】
「くっ……やっぱ厳重だな」
ゆうたは思わずメモリを手でつかむ。
「ヒカル……俺たちに触ってほしくなかったのかな……」
陸斗が首を振った。
「逆だ。
これは“誰にも壊されたくないデータ”ってことだ。
もしかしたら……ヒカル自身のコア記録が入ってるかもしれねぇ」
ゆうたの胸がぎゅっと熱くなる。
「……じゃあ、絶対開ける」
⸻
■父の影
解析を進める陸斗の背後で、
ゆうたは机の端に座ってヒカルの欠片を見つめていた。
父さんの怒鳴り声。
壊れて倒れたヒカル。
何もできなかった自分。
「……次は絶対、守るから」
その小さな独り言に、陸斗が振り返る。
「ゆうた、お前さ……変わったよな」
「え?」
「前のゆうたなら、今ごろ塞ぎ込んでるだけだったと思う。
でも今は……“取り戻す”って顔してる」
ゆうたは照れくさくて顔を背ける。
「ヒカルが……俺を変えてくれたんだ」
⸻
■セキュリティ突破
そのとき、画面がピッと鳴った。
「……おっ?」
陸斗が身を乗り出す。
【第四セキュリティ層に到達しました】
「おいおい、早すぎねぇか……?
ヒカルのデータ、なんか……自分から開こうとしてるみたいだぞ」
ゆうたも画面を覗き込む。
「ヒカル……協力してくれてるのか?」
すると突然、端末が短く光った。
――ユウタ……
二人は固まる。
「い、今……聞こえたよな?」
「聞こえた……!」
どう考えても幻聴ではない。
これは……ヒカルの声だ。
⸻
■データの中の“涙”
画面に一つの小さなファイルが生成された。
タイトルにはこう書いてある。
【ゆうたへ】
「……ヒカル……」
震える指でクリックすると、
一行だけの短い文章が表示された。
⸻
《ぼく モット ユウタト イタイ。》
⸻
機械的なカタカナなのに、
温度がある。
あの、ぎこちなくて、
でも人懐っこくて……
ゆうたが一番大好きだったヒカルの声そのものだ。
ゆうたの視界がにじむ。
「ヒカル……お前……」
隣で陸斗まで目を潤ませている。
「……こんなん、ずりぃだろ……」
⸻
■ゆうたの選択
胸の奥から込み上げた想いを押さえながら、
ゆうたはしっかりと前を見る。
「陸斗……ヒカルを……戻す。
このメモリが“魂”なら……
“体”は俺たちで作ろう」
陸斗はニッと笑った。
「よっしゃ。作ろうぜ。
今度はCランクじゃなく……Aランクにしてやろうぜ」
「それでも泥だらけになるよ、きっと」
「だろうな。あいつ、天才的に転ぶからな」
二人の笑い声が、工房に温かく響く。
⸻
■しかし、父が現れる
「……お前たち、何をしている」
背後から、低い声。
振り返ると、ゆうたの父が立っていた。
険しい目。
固い表情。
ゆうたの背筋が固まる。
「父さん……これは――」
「ヒカルの残骸を……まだ触っているのか」
ゆうたは拳を握る。
逃げない。
もう、下を向く自分じゃない。
「……ヒカルは“残骸”じゃない。
俺の……大切な仲間だ」
工房の空気がピシッと張り詰めた。




