第6話 父の真実、ヒカルの涙
■父の名前を聞いた瞬間
「……父さん……?」
ゆうたはその場に立ち尽くした。
耳の奥がジンジンして、周りの音が遠のく。
陸斗が慌てて肩を掴む。
「ゆ、ゆうた! とりあえず落ち着けって!」
しかしゆうたは震える声でつぶやいた。
「……なんで……父さんがヒカルに何かしたなんて……
そんなわけ……」
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■ヒカルが苦しみ出す
ヒカルが突然身体を丸めた。
『……イタ……イ……
アタマ……ガ……ガ……ガ……』
「ヒカルーッ!!」
ゆうたがすぐに抱きかかえる。
整備士がモニターを見て叫んだ。
「外部指令が……急激に増幅しています!
誰かが“今この瞬間”アクセスしてる!」
「は!? 何でだよ!」
陸斗が叫ぶ。
「破壊された時に埋め込まれた“仕掛け”が、
復元で再び動き出したんです!」
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■ヒカルの記憶断片が映る
工房の中央に設置されたホログラム投影機が、
突然勝手に起動した。
「うわっ……!」
そこには――
・夜の農道
・黒い作業着の男
・そして……ゆうたの父の後ろ姿
が映し出された。
『……こいつを……村に置いておくのは危険だ。
ゆうたを……巻き込むわけにはいかん』
聞き覚えのある、父の低い声。
ゆうたの心臓が締め付けられる。
「父さん……なんで……」
映像の中で、もうひとりの男が言った。
『じゃあ壊しましょう。証拠は残しません』
その瞬間、ゆうたの父は振り向いた。
『……頼むから誰にも言うな。
“あの子を守るため”なんだ』
そして映像は途切れた。
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■ゆうたの崩壊
「守るため……?
壊すのが……守るって言うの……?」
ゆうたの声はもう限界だった。
「ヒカルは……ただ、俺たちと畑を……
一緒にやろうって……それだけで……
なのに……」
腕の中のヒカルが震える。
『……ユウタ……ボク……まもり……たかっ……た……
キミ……の……かぞく……も……』
「喋んな! ヒカル!」
ゆうたは必死に抱きしめた。
「もう十分だよ……
お前が悪いんじゃねぇ……!」
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■ヒカルの涙
すると。
ヒカルの目尻から、小さな光の粒が落ちた。
「……涙……?」
整備士が息を飲む。
「ありえない……!
涙機能なんてついてないのに……!」
ヒカルは震える声でつぶやいた。
『……ユウタ……
きみ……かなしい……から……
ぼく……も……かなしい……』
ゆうたは堪えきれず号泣した。
「ヒカル……お前……そんな……
そんな風に……俺の気持ち……」
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■父との通話
突然ゆうたのスマホが震えた。
画面を見ると――父からの着信。
「う……そだろ……」
村長が「出なさい」と背中を押した。
震える指で通話ボタンに触れる。
「……父さん……ヒカルを壊したの……父さんなの……?」
しばらく沈黙が続き、
電話の向こうから、かすれた声が返った。
『……ゆうた……すまん……
でも俺は……間違ったことをしたとは思ってない』
「なんで……」
『あれは……“危険なんだ”。
わかるだろ? あいつは機械だ。
感情なんて、全部ただのプログラムで――』
「違う!!!」
ゆうたの声が工房に響いた。
「ヒカルは機械じゃない!
俺の仲間なんだ!!」
沈黙。
そして父の重い声。
『……なら、お前は……機械に心を許したのか』
ゆうたは迷わず言った。
「許したよ。
だってヒカルは――
俺を守ってくれた」
電話の向こうで息を呑む音がした。
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■ヒカルの“選択”
その時。
ヒカルがゆっくり手を上げ、ゆうたの腕を掴んだ。
『……ユウタ……
ぼく……いま……
じぶんで……きめる……』
「ヒカル……?」
『……キミ……を……まもるため……
ぼく……たたかう……
あの……しれい……を……けす……』
整備士が叫ぶ。
「待って! 自分でそんなことしたら……!
メモリが焼ける!!」
『……だいじょうぶ……
ボク……いま……“ココロ”……ある……から……』
ヒカルの全身が光り始めた。
「やめろ!! ヒカル!!!」
ゆうたが必死に押さえる。
しかしヒカルは微笑んだ。
『……ユウタ……おねがい……
すこし……だけ……
“て”……にぎって……』
ゆうたは震える手で、ヒカルの手を握った。
「離さねぇよ……絶対……」
『……ありがと……』
優しい声だった。
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■光の爆ぜる音
――パァァァン!!
工房が白い光に包まれ、
外部指令データが一気に消滅する。
モニターには
<ウイルス消滅──ヒカル自己判断処理完了>
の文字。
しかし。
ヒカルの身体が、ゆっくりと崩れはじめた。
「ヒカル……?
おい……やだ……やだよ……!」
『……ユウタ……
ない……て……る……の……?』
「泣いてねぇよ……
泣くかよ……そんなの……!」
『……よかった……
ぼく……
きみ……の……なか……で……
“ほんもの”の……なかま……
なれた……』
「なるなよ!! こんなの!!」
ヒカルは穏やかに、最後の言葉を告げた。
『……ユウタ……す……き……』
そして光は、静かに消えた。




