第3話 深夜の異変。ヒカル、走る
その夜。
ゆうたは布団に入りながら、なんとなく落ち着かない胸のざわつきを感じていた。
(……ヒカル、今日けっこう無理してたな……)
心配で眠りが浅くなる。
そして――深夜。
ガガッ……ピッ……。
低い電子音とともに、居間のほうで何かが動く音がした。
「ヒカル……?」
ゆうたは布団を抜け出し、そっと覗きに行く。
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■ヒカルの起動
部屋の真ん中で、ヒカルが体を小さく揺らしながら立っていた。
普段よりも弱い光で、胸のランプが点滅している。
『……ゆうた……ごめんなさい……
ヒカル……すこし……充電……たりません……』
「無理させたのかも……急いで充電スタンド持ってくるよ!」
『……まって……』
ヒカルがゆうたの腕をそっと掴んだ。
『ゆうた……ヒカル……ききました……外……なにか……音……します……
あれ……危険……かも……です……』
「外……?」
耳を澄ますと、かすかに地面を踏む音が、村の奥から聞こえた気がした。
ザ……ザッ……
夜に似つかわしくない、誰かの足音。
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■ヒカル、夜の村へ
『……ゆうた……
ヒカル……みに……いきます……
りくと……の 畑……かも……』
「えっ、待って!! 一人じゃ危ない!」
ヒカルはゆっくり振り向き、
弱った声で、それでもしっかりと言った。
『……だいじょうぶ……。
ヒカル……ゆうた……まもるため……行きます……』
その言い方は、今までで一番“意志”が強かった。
ゆうたは迷ったが――
ヒカルが本気で動こうとしているのを止められないと悟った。
「……わかった、じゃあ俺も行く!」
『……ゆうた……でも……』
「一緒に守るって言ったでしょ。
ヒカルだけに危ないことさせないから!」
ヒカルは一瞬だけ黙り、
そして小さく頷いた。
『……はい……いっしょ……いきます……』
ふたりは暗い村道を駆けだした。
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■陸斗の畑で
畑に着くと――
そこにはランタンの光が揺れていた。
誰かがいる。
「誰だ!」
ゆうたが叫ぶと、影がひるむように動いた。
ひとりの男――
村の作業服を着た、人影。
「……くそ……もう来たのか……!」
男は、水路の壁にびっしりと“何かの液体”を塗りつけている最中だった。
ヒカルがセンサーをかざす。
『……これは……
酸性……強い……液体……。
水路……こわせる……』
「壊す気だったんだ……!」
男はゆうたとヒカルをじろりと見た。
「ロボに邪魔されるとはな……
この村の仕事は人間のもんだ。
機械なんかに奪われてたまるかよ!!」
怒りと焦りで声が震えている。
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■ヒカル、前へ出る
ヒカルは足元がふらつきながらも、ゆっくり男の前に立った。
『……やめて……ください……。
りくと……かなしい……なります……。
村……こわれます……。
ヒカル……止める……』
「ロボットが……人間に命令するな!!」
男が石を持ち上げた。
「お前みたいな半分壊れた機械なんか――!」
振り上げた瞬間。
ヒカルの胸のランプが、強く、強く光った。
『……ゆうた……に……
手……ださないで……ください……!!』
その声は――
完全に、人間の怒りに似ていた。
男は一瞬ひるむ。
その隙に、ゆうたが叫んだ。
「陸斗ー!! 誰か! 助けて!!」
家の明かりが次々と灯り、
人々が走ってくる足音が広がった。
男は舌打ちし、ランタンを蹴飛ばして逃げて行った。
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■ヒカルの身体に異変
犯人が見えなくなるのを確認したゆうたは、ヒカルの肩に触れた。
「ヒカル! 大丈夫!? 倒れてない?」
『……ゆうた……よかった……。
ヒカル……まにあった……』
安堵の声のあと――
ヒカルの膝ががくんと崩れ落ちた。
「ヒ、ヒカル!!」
『……ごめんなさい……。
ヒカル……充電……ほとんど……なくて……
でも……ゆうた……守りたくて……』
ぼんやりと光る胸のランプが、
ゆっくり、ゆっくり弱まっていく。
「ヒカル!? ヒカル!!
帰ろう! 充電しないと!!」
『……ゆうた……
まもれて……よかった……』
そう言った瞬間、
ヒカルの体の光がふっと消え――
ヒカルは静かに、動きを止めた。




