第2話 広がる噂と、忍び寄る影
陸斗の家の水路での一件から二日後。
ヒカルの存在は、良くも悪くも村中の話題になっていた。
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■村の商店にて
ゆうたがお使いで店に来ると、店主の奥さんがひそひそ声で言った。
「ねぇねぇ。ゆうたくんちのロボ……
話すのが上手になってきてるって、本当?」
「う、うん。毎日少しずつだけど」
「やぁねぇ。ロボットが成長するなんて」
奥の方ではじいちゃん達がこんな噂をしていた。
「ロボが“意志”なんて言葉を使ったそうじゃ」
「怖いわい。暴走して襲ってくるんじゃなかろうな」
「ゆうたの家、巻き込まれんようにせんとな」
(そんなこと……絶対ないのに……)
ゆうたは少しだけ唇を噛んだ。
ヒカルの優しさが伝わらないのが悔しい。
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■ヒカルと陸斗の畑
今日もヒカルは陸斗の畑にいた。
泥を跳ねあげながら、でも懸命に動いている。
『りくと……ここ……もう一回……掘ります……』
「おう、頼んだ!」
ヒカルがスコップを持ち上げたその時――
水路の奥に、妙な“白い粉”が散っているのに気づいた。
『……ゆうた……これ……なに……?』
「白い粉……? 肥料じゃないよな……」
陸斗が駆け寄って、ひざをついて匂う。
「これ……石灰? でも撒き方が不自然だ」
水路の壁一面に、白い粉が線を描くように付着していた。
「誰かが……また何かした?」
「でもなんで石灰?」
『……石灰……強い水……かける……と……
コンクリ……ぼろぼろ……に……なります……』
ゆうたと陸斗は顔を見合わせた。
「それって……」
「水路を壊すため……?」
ヒカルはふるっと身体を震わせた。
『……こわい……です……。
でも……ゆうた……りくと……まもる……』
ヒカルの決意は、昨日よりもさらに「人間の声」に近かった。
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■夕暮れ、犯人の影
作業を終え、三人が一息ついている頃。
その少し離れた林の影に――
じっとこちらを見つめる「誰か」がいた。
村の作業服のような格好。
顔は深く帽子で隠している。
「……あれが噂のロボか……」
小さな声。
それは怒りなのか、嫉妬なのか、焦りなのか。
「ロボットなんかに……村の仕事は渡さねぇ……」
その呟きは、決意に似た濁った熱を帯びていた。
犯人は――確実に動き出していた。
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■帰り道のヒカル
夕暮れの赤い光の中を歩くヒカルの足取りは、少しふらふらしていた。
「ヒカル、大丈夫? 今日たくさん動いたし」
『……だいじょうぶ……。
ヒカル……まだ……Cランク……だけど……
がんばる……。
ゆうた……りくと……守る……』
その声は、もはや“ロボットの発音”ではない。
心のこもった、大切な仲間の声だった。
「ヒカル。ありがと。
でも……危ないことは一人でしないでね?
ちゃんと言ってくれないと、俺たちも心配だよ」
ヒカルはゆっくりと振り向く。
『……ヒカル……ひとりで……がんばる……くせ……あります……。
でも……ゆうた……心配……イヤ……。
だから……
いっしょ……に……がんばる……』
その言葉に、ゆうたは思わず笑ってしまった。
「うん。じゃあ、ずっと一緒に頑張ろうな」
『……はい!』
ヒカルの顔のランプは、星のように明るく灯った。




