第5章 孤独 第1話 ヒカル、はじめての“反論”
翌朝。
ゆうたの家に朝日がさしてくると同時に、軽い電子音が鳴った。
『……おはよ……う……ございます……ゆうた……』
扉を開けると、そこには昨日より少し滑らかな表情をしたヒカルが立っていた。
「ヒカル、来てくれたんだ!」
『ゆうた……今日……手伝う……。
その……りくとの……みずみち……。
ヒカル……まもりたい……』
ゆうたは笑って頷いた。
「よし、じゃあ行こう!」
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■村の井戸端、ざわつく声
ヒカルが村を歩くと、周囲がざわっとした。
「あれが……ゆうたんとこのロボか……」
「昨日、陸斗んちの水路見てたってやつ?」
「怖いわねぇ、ロボが自分で判断しはじめるなんて」
ヒカルの歩みが、ほんの少しぎこちなく止まる。
『……ゆうた……。
ヒカル……わるいこと……してない……のに……』
ゆうたはきっぱり答えた。
「気にしないで。
ヒカルが頑張ってること、みんなそのうちわかってくれるよ」
ヒカルの目が、微弱ながら明るく点滅した。
『……ゆうた……ありがとう……』
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■陸斗の家の前で
陸斗はスコップを持って待っていた。
「おー遅いぞ! 今日は見回りからやるからな!」
『はい……りくと……!』
ヒカルは前よりスムーズに頭を下げる。
その瞬間――
村の年長者である小田じいちゃんが、ゆっくり近づいてきた。
「おい、陸斗……。
そのロボット、本当に大丈夫か?」
「え?」
「昨日も水路が荒らされた。
ああいうのは昔から“村の問題”だ。ロボに任せてよいもんじゃない」
陸斗はムッと唇をかむ。
「ヒカルは関係ねぇよ」
「わしは反対だ。ロボが農地に入るなど……」
そのときだった。
ヒカルが、静かに前へ出た。
『……ヒカル……悪いこと……してません……。
ヒカル……りくと……たすけ……』
「ロボットが口答えするんじゃない!」
じいちゃんの声が強く響く。
普通ならそこでヒカルは下がるはずだった。
だが――
今日のヒカルは違った。
『……口答え……では……ありません……。
ヒカル……説明……しています……。
りくと……ゆうた……大事……です……。
まもりたい……意志……あります……』
ゆうたと陸斗は息を呑んだ。
ヒカルが、
――“意志”という言葉を使った。
「……意志、だと……?」
小田じいちゃんも表情を変える。
ヒカルは胸のランプを静かに点滅させ、続けた。
『ヒカル……ロボ……。
でも……りくと の 困った顔……見ました……。
ゆうた の 悲しい声……感じました……。
ヒカル……ただの道具……イヤ……です……』
その言葉は、
ぎこちないながらも、
はっきりと、人間のような温かさを持っていた。
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■そして、じいちゃんの返答
「……ふん。
……わしは簡単には認めんぞ。
だが……その言葉が嘘じゃないなら……見せてもらおうか」
『……はい……!
ヒカル……がんばります……!』
陸斗は小声でゆうたにふさふさ言った。
「おい……なんか……ヒカル、普通に言い返してなかったか?
ちょっと怖いくらい……成長してね?」
「うん……でもそれって……」
「良いこと……なんだよな?」
ゆうたは胸の奥を温めながら頷いた。
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■ヒカルは今日も泥だらけになる
そのあと、三人で水路の見回りをし、補修し、
原因をしらみつぶしに探していく。
ヒカルは相変わらず泥の中に足をズボッと入れたり、
石につまづいて顔から倒れたりして――
『……ごめんなさい……
ヒカル……まだ……ポンコツ……です……』
「いいって! そういうところがヒカルなんだから!」
「むしろそこが好きだぞ、おれは!」
ヒカルの顔のランプがふわっと明るくなる。
『……ヒカル……うれしい……です……』
この瞬間、ゆうたは確信した。
ヒカルは、ただのロボットじゃない。
“心を持ちはじめたヒカル”が、ここから物語を変えていく――。




