表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/55

惨めな晩餐会②

ゲルハルトの言葉に、エレーヌから浮ついた気持ちが消え失せた。惨めさにおおわれる。傷ついて、目に涙が溜まってきた。


ゲルハルトは、エレーヌのその顔を見て、顔を曇らせた。しかし、覚悟を決めたように、告げてきた。


『俺には他に愛する女性がいるんだ。許して欲しい』


(よくも抜け抜けとそんなことが言えるわね)


エレーヌは悲しみを通り越して呆れ果てた。


ホールに向かうまでの間、ゲルハルトはずっと話しかけてきた。優し気な声音だったが、言ってくるのは侮辱的なことばかりだった。


『あなたにはいずれ城を出て行ってもらう』


「………はい」


『俺には他に愛する人がいる。だからあなたを愛することはできない』


「はい」


『悪く思わないで欲しい。俺の愛する人はあなたと違って、とても魅力的な人なのだから』


あまりにひどい言葉にエレーヌはまじまじとゲルハルトの顔を見つめてしまった。ゲルハルトが優し気な笑みを湛えているのを見て、唖然とする。


(人の心がないのかしら。こんな優しい顔つきで、ひどいことを言えるなんて)


エレーヌはそれから、適当に相槌を打つことにすれば、ゲルハルトにもエレーヌが会話をしたくないのが伝わったのか、最後には黙り込んだ。


しかし、目が合えば、ゲルハルトは笑みを浮かべてくる。それは目に優しさを存分に湛えて。


侮辱的なことばかり言ってくるのに、平然と笑顔を向けてくる。とてもではないが尋常な神経とは思えない。


(さすが王様ね。常人とは違うんだわ)


エレーヌはそう納得することにした。


ホールに着けば、三十名ほどの貴族らが待ち構えていた。その場はエレーヌのお披露目会というには、いささか冷淡な雰囲気を帯びている。


ゲルハルトは不意にエレーヌの足元にひざまずくと、手の甲にキスをしてきた。


(仲の良い夫婦アピールかしら)


貴族から拍手が起こり、人々はぎこちないながらもエレーヌを受け入れざるを得なくなったようだった。


ゲルハルトはまず、エレーヌを太后へと紹介した。


『俺の母、太后カトリーナだ』


カトリーナは、温かな眼差しをエレーヌに向けてきた。ゲルハルトは黒目黒髪を母親から受け継いだらしかった。


先日、中庭で、ゲルハルトとお茶をしていた貴婦人だった。


カトリーナはわざわざ立ち上がると、エレーヌをそっと抱きしめてきた。体が離れると、優しげな顔を向けてきた。


『エレーヌ、あなたは傲慢な王女ね』


カトリーナの顔つきから歓迎を受けていると思いきや、エレーヌは衝撃を受けた。


(え……?)


衝撃ののちに、エレーヌの目に涙が浮かんできた。


(きっとゲルハルトさまに想い人がいるのを知っているのね。それで、この方も私を邪魔に思うのだわ)


そんなエレーヌの手元を、カトリーナは見てきた。エレーヌは、腕に下げた布袋から刺繍の施されたハンカチを取り出し、カトリーナに差し出そうとしていたところだった。


エレーヌの部屋には刺繍のハンカチがたくさんたまっている。エレーヌの立場は弱い。少しでも周囲に媚びるために持ってきた。


エレーヌは引っ込めるわけにもいかず、そのままカトリーナに手渡した。


つっかえされるかと思えば、カトリーナは受け取ると、目を見開いた。それには隅々まで細かい刺繍が施されている。


『あなたがつくったの?』


エレーヌがうなずくと、カトリーナはおおげさに喜んで、隣にいる貴婦人らにそれを見せた。


カトリーナはエレーヌをまた抱き寄せた。


「エレーヌ、#####、ありがとう」


耳元で囁いてくる言葉に、《ありがとう》を聞き取って、エレーヌの悲しみは何とか収まった。


(カトリーナさまは、きっと悪い人ではないのだわ……)


次に、ゲルハルトはミレイユを紹介する。


『ミレイユは俺の義姉だ。もう、ミレイユのことは知ってるよね』


ミレイユに出会った日の報告はゲルハルトにも届いているのだろう。


「はい。とても優しくしていただきました」


ミレイユの横には王子がいた。


『そして、俺の甥、エディー。ミレイユと兄の子だ』


(まあ、ミレイユさまにはお子さまがいたのね)


エディーはまだ幼く、エレーヌを見ると「きゃはぁっ、うふふふ」と笑って、ミレイユの膝に顔を隠した。


(何て可愛らしいお子なの)


ミレイユはエレーヌを見ると嬉しそうに笑いかけてきた。


『エレーヌ、あなた、随分、健康そうになったわ。良かったわ!』


「ミレイユさま……!」


エレーヌは優しい言葉に思わず涙ぐむ。


ゲルハルトは、次にその隣に座る令嬢を紹介してきた。ピンクブロンドの髪の令嬢だった。やはり、中庭でお茶をしていた令嬢だ。


『マリーだ。俺の幼馴染みだ』


マリーは、とても愛くるしい令嬢だった。人懐っこく笑いかけてくる。


『マリーです。よろしくね』


個別の紹介はそこで終わりらしく、ゲルハルトとエレーヌは、テーブルに着くことになった。


着席の前に、ゲルハルトは皆に向けて言った。


着席となってほっとしていたエレーヌは、ゲルハルトの言葉に、凍り付いた。


『ブルガンから来たエレーヌ王女だ。みすぼらしく貧相な王女だが、受け入れて欲しい』


(えっ……?)


《みすぼらしく貧相な王女》


エレーヌは頭を殴られたような心地だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ