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呪いの抱き人形

(愛人を作るって、妻である私に言うの………?)


エレーヌは絶句してマリーを見つめた。


(どうしてかしら、マリーさまの言葉はいちいち胸につっかえるわ)


『ゲルハルトが何かしでかしたら、私に言ってちょうだいな。私がちゃんと叱ってあげるから』


「はい、よろしくお願いします」


エレーヌはマリーの口ぶりに違和感を覚えた。


(私の言うことは聞かなくても、マリーさまの言うことは聞くって言いたいのかしら。どうしてかしら、マリーさまは私に対抗心でも抱いているように思えてしまうわ。それとも、私が対抗心を抱いてるからそう感じるのかしら)


『まあ! 花冠』


マリーは立ち上がると、キャビネットの上に立てかけた花冠を手に取った。ゲルハルトがエレーヌに作ってくれたクローバーの花冠を陰干しして、大切に飾っていたものだ。


『クローバーの花冠ね。ふふ、小さい頃、私もゲルハルトに作ってあげたのよ。私がゲルハルトに教えてあげた作り方だわ。これ、ゲルハルトが作ったのね?』


「はい」


『ふふ、良かったわ。仲が良さそうで』


マリーは目を細めて花冠を眺めている。ゲルハルトととの思い出に浸るような顔つきだった。


(ゲルハルトさまも、こんな風に昔を懐かしむような顔をしていたわ)


マリーはエレーヌの頭に花冠を乗せてきた。


『まあ、可愛い』


マリーに花冠を乗せられ、その上「可愛い」と言われ、ゲルハルトと過ごした草原でのひとときに、マリーに割り込んでこられたような気がして、エレーヌに不快さが込み上げてきた。


(胸がむかむかしてくるわ。私、マリーさまに嫉妬しているんだわ。恥ずかしいわ。マリーさまはゲルハルトさまの幼馴染みなのに)


しかし、幼馴染みが王宮に住むとはどういうことなのか。


『ホント、良く似合う。可愛いわ!』


マリーは花冠を乗せたマリーを何度も褒めてきた。ラクア語の可愛いは、ゲルハルトがよく言ってくるためにもう簡単に聞き取れる。


マリーは、「可愛い、可愛い」と何度も大げさに言ってきた。


(もしかしたら、馬鹿にされているのかしら)


ゲルハルトが作ったものだからエレーヌには価値があるが、それは傍目には乾いた草の輪っかだ。それをかぶって「可愛い」と言われても、さほど褒められているようには感じない。それは自分の心がさもしいからだろうか、と、エレーヌは戸惑うしかなかった。


エレーヌは頭に乗った王冠を取ろうとした。乾いた茎が頭に刺さって少々かゆい。


しかし、髪が引っかかって取れなくなってしまった。


『待って、エレーヌ、私が取ってあげるわ』


マリーはエレーヌの髪に手を伸ばして何やら苦戦していたが、そのうち、カサリと音がして、「あっ」とマリーから気まずそうな声が漏れた。


『あら、ごめんなさい』


マリーの手には、真っ二つに割れた花冠があった。


エレーヌは何も言えずにじっとマリーを見つめた。


マリーは「本当にごめんなさい」と何度も謝ってきたが、エレーヌにはわざとらしく映った。


「いいえ、いいんです」


エレーヌは割れた花冠をキャビネットへ戻した。


マリーはごまかすように、連れてきた侍女に持たせた包みを渡してきた。


『これ、あなたへのプレゼントよ、開いてみて』


エレーヌは、黙って包みを開いた。中から出てきたのは、人形だった。


『あなたに差し上げるわ。私が作ったのよ』


柔らかい布で出来ている抱き人形だ。


『ふふ、呪いを込めているのよ』


(呪い………?)


マリーは不意にエレーヌの手を取った。そして、自分の腹に当てた。


(えっ?)


マリーのドレスは胸の下で切り替えられ、その下がふくらんでいるが、エレーヌはそのときになって、それはデザインのためにそうなっているわけではなかったことに気づいた。マリーの腹が膨らんでいたのだ。


エレーヌがマリーの顔を見れば、マリーは勝ち誇ったような顔をしていた。


(マリーさまはお腹に赤ちゃんがいるの?)


そのとき、中からはじき返すような振動を受けて、エレーヌはびっくりして手を引っ込めた。


『うふふ、今、蹴ったわね。とても元気が良い子なのよ』


エレーヌは息を飲んだ。幸せそうに目を細めるマリーを見つめる。


マリーは笑いながら言ってきた。


『それと、今日だけはゲルハルトを返してね』


(返して………?)


マリーは意味深な台詞を残して部屋から去っていった。


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