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姑の暴言

エレーヌとゲルハルトは、陽光がすっかり高くなってから寝室から出てきた。そのときには、ゲルハルトはエレーヌを抱きかかえており、エレーヌはゲルハルトの首に腕を絡ませていた。そして、二人は見つめ合っていた。


二人の醸し出す空気はそれまでのものとは全く異なっており、親密さにあふれている。


ハンナはそんな二人を見て、小さく叫んだ。


「エレーヌさま! ゲルハルトさま!」


ハンナは飛び上がって両手を胸の前で合わせた。そして、目に涙をじんわりと浮かべる。


あからさまなハンナの喜びように、エレーヌは自分自身の心情を表現されているようで、恥ずかしくなった。


(ハンナったら、泣くことないじゃないの。私も泣いてしまうわ)


エレーヌはゲルハルトの首をギュッと抱きしめて、肩に顔をうずめて涙を隠した。


ただ一人、ディミーは恨めしそうな顔をしていたが、誰もそれに気づくことはなかった。


***


それから、ゲルハルトはエレーヌと過ごす間じゅう、エレーヌをひとときも離そうとはしなかった。食事を摂るのにも、エレーヌを自分の膝の間に座らせて食べさせるほどの溺愛ぶりだった。


ゲルハルトはエレーヌのために肉を小さく切って、その口に運ぶ。


「エレーヌ、オイシイ、タベル」


エレーヌが肉を口に含めば、ゲルハルトは満足そうに笑って、そして、エレーヌの頬に、チュ、と口づける。


城下に出かけることになれば、馬車の中でもゲルハルトはエレーヌを膝に抱いて離そうとしない。馬車を降りても、腰を抱き、親密さを隠そうとはしなかった。


王宮に戻れば、ゲルハルトはエレーヌを腕に抱いて部屋まで運び、エレーヌもまた、ゲルハルトの首に腕を絡ませている。


ブラックベリーに乗って出かけた先の草原でも、二人は片言で愛を囁き合った。


そんなありさまになってしまった二人に、使用人らは当てられるやらほっこりするやらだった。


そんな数日間を過ごしたのちのある朝、ゲルハルトは、外せない執務があるらしく、朝食を食べるとエレーヌの部屋から出て行くことになった。


出て行くときにはそれはそれは去り難そうに、何度もエレーヌを抱きしめて、キスをしていった。


久しぶりに一人になったエレーヌは、部屋に取り残された途端に、胸の奥から狂おしいほどのゲルハルトへの想いが込み上げてきて、たまらなくなった。


ずっとそばにいたから、いなくなればこのうえなく寂しい。


エレーヌは刺繍道具の入ったカゴを取り出した。そして、寝室のチェストの奥に仕舞い込んだままになっていたハンカチを取り出した。


(捨てなくて良かったわ)


ゲルハルトのために刺した紋章の刺繍。渡すことができなかったハンカチだ。


紋章の反対側に、刺繍を付け加えることにした。


(ブラックベリーがいいわね)


エレーヌは丁寧に馬の下地を描いてから糸を刺していく。


(愛する人のために何かを作るって、こんなに幸福な気持ちになるのね)


刺繍をすればいつも心が落ち着いてくるものだったが、その日は、穏やかなだけではなく浮き立つような喜びを抱いていた。


エレーヌはゲルハルトのことを想いながら、一刺し一刺し針を進める。


(ゲルハルトさまがずっと健康でありますように。ゲルハルトさまが怪我などしませんように。ゲルハルトさまがいつも笑っていられますように)


ゲルハルトを想いながら糸を刺す。


そんな午後、幸福な気持ちで過ごしているエレーヌのもとに、思いがけない客がやってきた。部屋に顔を出したハンナが嬉しそうな顔で言ってきた。


「エレーヌさま、カトリーナさま、####」


来客は太后カトリーナだった。


「まあ、カトリーナさまがいらっしゃってくださったのね!」


エレーヌは、その訪問に緊張するも、喜びが湧いてきた。


(カトリーナさま! 私をわざわざ訪ねてくださったのね。嬉しいわ。私も、カトリーナさまと仲良くしたいわ。だって、ゲルハルトさまのお母さまなんだもの)


部屋に現れたカトリーナにエレーヌが駆け寄ると、カトリーナはエレーヌを抱きしめてきた。


「エレーヌ! ######」


カトリーナは目を細めてエレーヌに笑いかけてきた。


(カトリーヌさま、なんてお優しそうなお顔を向けてくれるのかしら)


エレーヌは胸がいっぱいになった。エレーヌもカトリーナをそっと抱きしめ返した。


「カトリーナさま、ようこそお越しくださいました」


「エレーヌ、#####」


ディミーがカトリーナの言葉を訳す。


『エレーヌ、せいぜい体に気をつけなさい。あなたでも、一応は王妃なのですから』


エレーヌは笑みを浮かべたまま、首を傾げた。


(とげがある気がするのは私の気のせいかしら)



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