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クローバーの花冠②

「エレーヌ、カワイイ」


ゲルハルトは黒い双眸でエレーヌを捉えて言ってくる。


「?!」


エレーヌは氷のように固まってしまった。次に、真っ赤に頬を染めていく。


その様子を見たゲルハルトは確信した顔で、立て続けに言ってきた。


「エレーヌ、カワイイ、カワイイ」


ゲルハルトは真剣な顔でそう言ってくる。


「エレーヌ、カワイイ」


(もう、だめ!)


エレーヌはゲルハルトの口を手で抑えた。そうすれば、ゲルハルトはエレーヌの手のひらにキスをしてきた。エレーヌが思わず手を外すと、ゲルハルトはエレーヌの手首をつかんで、手の甲にキスをする。


真っ赤になって顔を背けるエレーヌのあごを、ゲルハルトは持ち上げて、自分に向かせた。


「エレーヌ、コッチ、ミテ。ワタシ、ミテ」


エレーヌがゲルハルトを見ると、ゲルハルトはまっすぐにエレーヌを見つめて言った。


「エレーヌ、カワイイ。スキ、タイセツ」


ゲルハルトのキスは、手の甲から、腕、肩、と上がっていき、頬になった。そして、唇に近づいてきた。


エレーヌは避けることができなかった。


(どうしよう、私、ゲルハルトさまのことが好きなんだわ、好きになってしまったんだわ)


草原で花冠を被る二人は唇を寄せ合った。若き国王と王妃の二人だった。


***


その夜、ゲルハルトはやはりエレーヌの寝室を訪れてきた。


エレーヌは寝たふりをしたが、背中からゲルハルトに抱きしめられて、息を止めた。


「エレーヌ?」


(ゲルハルトさまに起きていることを気づかれてしまったかしら)


ゲルハルトは顔を覗き込んできた。


エレーヌは必死で目を閉じるも、ゲルハルトが脇をくすぐってきた。


「くふふっ」


エレーヌが笑うと、ゲルハルトも「ふははっ」と笑った。


(もう、くすぐり返してやるわ)


エレーヌが振り返って手を上げると、ゲルハルトはその手を掴んできた。そして、エレーヌの両手をシーツに押し付けた。


ゲルハルトの唇がエレーヌに降りてくる。


エレーヌは目を閉じて受け止めた。


***


朝の陽光が薄いカーテン越しに室内に差し込んでいる。


柔らかい光に包まれて、エレーヌはまどろんでいた。


ベッドの上で温もりを味わっている。


(心地が良いわ、温かくて心地が良い……)


うっすらとエレーヌが目を開けると、その朝も、ゲルハルトの腕にすっぽりと包まれていた。


顔を上げると、ゲルハルトの黒目と目が合った。ゲルハルトは先に目覚めていたらしい。


(ゲルハルトさま………)


エレーヌは思わず涙がこぼれそうになる。口には笑みが浮かんでくるのに、目には涙がたまってくる。


その涙が、愛おしい、という気持ちから来るものだと、エレーヌにはもうわかっていた。


(ゲルハルトさま、温かくて、気持ち良くて、とても満たされる……)


ゲルハルトの胸に頬ずりをして、そして、肌と肌が密着していることを感じ取る。


エレーヌは一糸まとわぬ姿でゲルハルトの腕の中にいた。


昨晩のことを思い出したエレーヌは、ゲルハルトから目を背けた。


ジタバタとゲルハルトの腕から逃れようとするも、しっかりと抱きとめられて逃れられないでいる。


「エレーヌ、カワイイ。スキ、タイセツ」


ゲルハルトはそう言いながら、エレーヌの頭にキスを落としてくる。


エレーヌはその言葉をもう何度聞いたことか。


夜じゅう、ゲルハルトはエレーヌにそう囁き続けていた。キスをしては囁き、囁いてはキスをしてきた。エレーヌは体の至る所に、ゲルハルトのキスを受けた。


ゲルハルトはそれはそれは優しくエレーヌを扱った。エレーヌが恥ずかしくなるほどに、エレーヌを愛おしんだ。


(これが夫婦になるということなのね。私たち、夫婦になったんだわ)


エレーヌが逃げるのを諦めてゲルハルトの腕の中で大人しくなると、ゲルハルトはエレーヌの背中をいたわるように撫でてきた。


「エレーヌ、カワイイ、スキ、タイセツ」


ゲルハルトは、少ない単語だけで、エレーヌへの想いを口にする。


エレーヌの目にまた涙がにじんできた。


(私もゲルハルトさまが好き……)


エレーヌがゲルハルトを見上げると、ゲルハルトも目にうっすらと涙を浮かべて、エレーヌを見つめ返していた。


(ゲルハルトさまも、私が好きなの……?)


ゲルハルトは、何度も「スキ」と言ってきた。


これまでは、一向に胸に響いてこなかった愛の囁き。


しかし、ゲルハルトの目に浮かんだ涙を見れば、エレーヌの胸の隅々へとゲルハルトの「スキ」が広がっていくのを感じた。


(ゲルハルトさまも私が好きなんだわ……、私もよ………)


エレーヌはゲルハルトを見つめた。


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