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小皿だらけの朝食

全裸のゲルハルトの股間には、エレーヌが見たことがないものがあった。


「きゃあっ」


ゲルハルトはエレーヌの声にビクッとし、自分が裸であることに今気づいたのか、さっとシーツで体を覆った。


ゲルハルトはベッドから転がり降りると、床に落ちていたガウンを拾い上げて羽織り、きつく腰ひもを締め、自分の頭をぽかぽかと殴った。


そして、エレーヌの元まで来ると、ひざまずいて、申し訳なさそうな顔で言った。


「エレーヌ、######」


裸でいたことを詫びているようだ。


「ごめん、って言ってるのね?」


(自分ではちゃんとガウンを着ているつもりだったのに、寝ている間に脱いでしまったのかしら。この人はよっぽど服が嫌いなのね。でも、私のために気を使って、ガウンを羽織ってくれたのね?)


「大丈夫、驚いただけよ」


エレーヌが作り笑いを浮かべて言うと、ゲルハルトは、ほっとした顔になって立ち上がった。


ゲルハルトが枕元の紐を引っ張れば、壁の向こうで鈴が鳴り、少しして、ハンナが入ってきた。


(この紐はそうやって使うのね)


エレーヌはそれが呼び鈴だったことにそのときになって気づいた。


ハンナは、ゲルハルトがエレーヌを訪問したことを知っていたようで驚いてはいなかったが、二人が和やかそうな様子でいるのを見て、感極まったように目を潤ませ始めた。


(別に互いに気を許しているわけでは全然ないのに)


エレーヌはハンナをぬか喜びさせているようで気が引けたが、エレーヌに説明できることではなかった。


エレーヌの朝の支度を整えることになっても、ゲルハルトは部屋から出て行きそうになかった。


ハンナが髪をとかしている間も、ゲルハルトはエレーヌをじっと見てくる。鏡越しに目が合うと、笑いかけてくるので、戸惑いながらもエレーヌも笑い返した。すると、ゲルハルトは照れたような顔を向けてくる。そうなると、エレーヌもどこか恥ずかしくなって、目を伏せた。


そんな二人をいちいちハンナが目を潤ませて見てくる。


そのうちゲルハルトはエレーヌの髪をいじりたくなったのか、ゲルハルトもエレーヌの髪に触り始めた。エレーヌの髪を高く上げたり、二つに分けてサイドでまとめたりしている。


ハンナと二人でエレーヌの髪型について、ああだこうだ、話し合いながら、最終的に、エレーヌの髪は頭頂に一つまとめという奇抜な髪型になった。


二人ともどういう美的センスなのか、「エレーヌ、キレイ!」と言っている。


さすがに服を着替えるときにはゲルハルトはハンナに部屋を追い出された。


エレーヌがドレスに着替えて居間に出たときには、ゲルハルトもブラウスにズボンを身に着けて、ひげも剃り、きちんと櫛を入れた髪で、エレーヌの居間のソファに座っていた。


テーブルの上には食事が用意されていた。


エレーヌは大抵、パンとスープと果物しか食べないために、食事にもそれらのものしか出なかったが、今朝のテーブルには、いろいろなものが少しずつ、小さなお皿に乗っていた。


昨晩、ほとんど食べられなかったせいか、それらのものを見ると、急に空腹を感じてきた。お腹が正直に、ぐぅと鳴った。


エレーヌは顔を真っ赤にさせたのに、ゲルハルトは、遠慮なく笑った。


「ハハッ、エレーヌ、#####、ハハハッ」


その間も、ぐぅうきゅるるる、と、エレーヌの腹は食べ物を催促するように鳴り続けるため、エレーヌはいたたまれなくなり黙って椅子に座った。


エレーヌは恥ずかしさを紛らわせるために、座るなり、艶やかなブドウの実を口に含んだ。


「エレーヌ、####、オイシイ?」


「オイシイ」


エレーヌが言ったラクア語の「オイシイ」にゲルハルトは嬉しそうな顔をした。


エレーヌは、パンとスープと果物を食べ終えたところで、ナイフとフォークを置いた。


それを見て、ゲルハルトは卵料理らしきものをすくいあげて、エレーヌに見せた。


「エレーヌ、オムレツ、オイシイ」


ゲルハルトはパクッと自分の口に入れる。


オムレツには赤い血のようなものが乗っかっているため、エレーヌは手を出さなかった。しかし、ゲルハルトは口の周りに着いた赤いものをぺろりと舐めた。


エレーヌは思い切ってオムレツを口に入れてみた。赤い血のようなソースは、トマトで出来たもののようだった。酸味とコクがバランスよく、とても美味しかった。


「エレーヌ、オイシイ?」


「ええ、オイシイ」


「エレーヌ、オムレツ、###?」


ゲルトハルトはオムレツを持ち上げて、「###?」と言いながら、チュ、と、オムレツに口づけた。


その仕草に色気を感じてしまい、エレーヌはドキドキしてしまう。


《###》は、「好き」に違いなかった。


そのうえ、ゲルハルトは立ち上がれば、エレーヌの足元にひざまずいてきた。そして、エレーヌの手を取り、指先にキスをして「ゲルハルト、エレーヌ、スキ」と言った。


エレーヌは顔に熱が溜まってきた。


ハンナがまた目を潤ませてこちらを見ているのがわかる。


(好き? ゲルハルトさまが私を好きってこと?)


エレーヌは、心臓の高まりが大きくなった。


(ゲルハルトさまは私のことを好き、と言っているの?)


当然のように、エレーヌに反発心が起きた。


(みすぼらしく貧相な王女なんか、好きじゃないでしょう? 愛する人がいるくせに)


エレーヌは手を引き抜くと、そっぽを向いた。エレーヌの態度に、ゲルハルトもハンナも唖然とした顔になった。


エレーヌは、自分の冷たい態度に気が引けて、オムレツを口に入れると大げさに褒めた。


「オムレツ、オイシイ、スキ。オムレツ、スキ」


ゲルハルトはエレーヌのつれない態度にも怒らずに、自分の席に戻ると、エレーヌに笑いかけてきた。


「エレーヌ、タイセツ、ナカヨク」


ブルガン語の片言で言われたそれに、エレーヌは戸惑った。


(どうして、そんなことを言ってくるの?)


黙り込んでいるエレーヌにゲルハルトは別のものを進めてきた。


いろんな野菜らしきものが固められているものを指してくる。


「エレーヌ、ゼリー」


「ゼリー?」


「オイシイ」


そうやって、ゲルハルトは野菜のゼリー寄せを口に入れる。


ゲルハルトがおいしそうに食べるものだから、エレーヌもつられて口に入れる。


そうやってゲルハルトはエレーヌに、少しずつ、しかし、たくさんの種類のものを食べてさせていく。


「オイシイ?」


「オイシイ」


「スキ?」


「スキ」


単語だけのつたない会話だ。


ゲルハルトは、エレーヌにいろいろなものを食べさせるために、食事を一緒にしているのかもしれなかった。


エレーヌにはゲルハルトの考えがわからなかったが、もしかしたら妻としてそれなりに大切にしなければならないと思い直したのかもしれなかった。


(一応、王妃だものね)


ゲルハルトは、緑色のものをすすめてきた。


「オイシイ、ゲルハルト、スキ」


(ゲルハルトさまの好物かしら)


ゲルハルトが、少しいたずらっぽい顔をしているのが気にかかるも、口に入れる。


そこで、エレーヌは、目を丸くした。口に入れると酸っぱかったからだ。


それは漬物の一種で、《ピクルス》だった。


「まあ、すっぱいわ!」


エレーヌの反応にゲルハルトもハンナもおかしそうに笑った。


(まあ! ゲルハルトさまは、私をからかったのね!)


「エレーヌ、ピクルス、オイシイ?」


「ええ、酸っぱいけど、オイシイ」


「スキ?」


「ええ、スキ」


エレーヌがもう一口ピクルスを口に入れれば、ゲルハルトは嬉しそうに笑い、エレーヌとハンナも一緒になって笑い声を立てた。


ディミーが入ってきたのは、そんなときだった。


「#######!」


ディミーはゲルハルトを見て、奇声を上げた。

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